90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

生れ出づる悩み

もっと切れのいい包丁に買い換えたい、と思いつくのは毎年、年の瀬になってからだった。
そして、はたと考える。
こんな時期に包丁を購入したら銀行強盗でもするつもりだと思われるんじゃないかしら・・・。
非常に自意識過剰でどうでもいい悩みであるが、結構真剣に3年ほど思い悩んだ。

ようやく決意して、年の瀬は避けた3月に憧れの吉實の包丁を買い求めたのが5年前。
買い求めた当初は刀のような切れ味に背筋がぞっとしたものだけど、半年すぎるとさすがに切れ味が鈍る。
季節はまたしても年の瀬。そして考える。
砥ぎに出したい。しかし、この年の瀬に包丁をバッグに入れて持ち歩くなど不審の極み。
職務質問されたらどうしよう。

悩みに悩んだ末、砥石を買って自ら砥ぐことにした。
砥ぎ方が正しいのかどうか、未だに毎回悩む。
今日、包丁を洗ったらひどく刃こぼれしているのに気がついた。
心当たりと言えば追分羊かんを「皮ごと切ってお召し上がり下さい」という指示通りに竹皮ごと切ったことくらい。
たしかに硬かったな、竹皮。恐るべし・・・。

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仕方なく夜な夜な包丁を砥ぎながら、頭によぎるのは、お婆さんが夜中に包丁を砥いでいるのをこっそり見た旅人が「ひぃ!鬼婆!!」と逃げ出す昔話。
今、私、鬼婆かしら。旅人は逃げ出すかしら・・・とまたしてもアホな物思いに耽る。

まったく、包丁っていうのはなぜこんなにも人を悩ませるものなのかしら。
それは生死を左右する事が可能な道具だからなの?