90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

嘘の日

ホテルの、ふかふかで大きな枕に顔を埋めて眠る時は、いくつになっても、まるで孤独なお姫様のような気分になるものね。
そして、自意識過剰な少女の心持ちで、あの小説の最後の文章を思い出して眠るのだ。

おやすみなさい。私は、王子様のいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?
もう、ふたたびお目にかかりません。
                  太宰治「女生徒」

それで朝になって、遮光カーテンを開けて目を眇めて、夜の間はきらきらとさも美しい街のように灯りを灯していた街の、魔法が解けてしまった事を見つけて少しがっかりする。
またしてもあの小説の主人公の言葉をつぶやいてみたりして。
朝は、なんだか、しらじらしい。と。

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ホテルに泊まる時は、いつも心のどこかに、少しだけ背伸びをしたおませな少女が顔を出す。
「女生徒」の少女のようになってみたり、「ティファニーで朝食を」の自由気ままなホリーを思い出したり。
多分それは、窓から見下ろす大通りの車のテールランプが意味ありげに光ること、テーブルに鍵を置くときのコトリという音。足音を吸い込むような毛足の長いじゅうたんの敷かれた廊下がまっすぐに続いていること。
そういった、ドラマの舞台となり得るシチュエーションに密かにトキめく私が幼いせいなんだろう。
どうやっても「旅慣れたマダム」みたいな気持ちにはなれなくて、いつまでも不安定な少女のままだ。

ホテルメトロポリタン エドモンド エドベーカリー クリームパン 150円。
パン:味がしないパン。感触があまり良くない
クリーム:一緒に焼いてある。バニラビーンズがつぶつぶしてて香りが強い。あまり好みじゃない
☆☆



で、まるで、エドモンドに泊まったかのように書いてきたけど、それは嘘。
ホテルのベーカリーでパンを買う事にちょっと浮かれてセレブみたいにすました顔してお会計をしたけどそれも嘘。
嘘の日だから、嘘ついていいんだー!、とはしゃぐ私の幼さだけが本当の事。