90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

上・京・物・語

東京というのは本当に不思議な街だ。
おしゃれなビルが立ち並ぶ大通りを一本裏に入っただけで、ドラマのセットみたいな、「今時これはないだろう」と言うような、古い、小さな家がひしめき合っている。
崩れかけた家が両隣の家に支えられてかろうじて建っていたり、いまだに二層式の洗濯機の置かれたコインランドリーに「裸で洗濯をするのはやめてください」との貼り紙がはられていたり、野良猫たちが我が物顔で歩いていたりする。
それから、道の真中にいきなり「どなたでもお休みください」と手書きされた椅子が置かれていたり、こうやって家の前に無造作に冷蔵庫が置かれていたりもする。
なんておかしな街だろう。唐突に近未来的なくせに唐突に下町くさい。

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おしゃれタウン世田谷にこんなお家が普通にあるので「やっぱ東京って変なの!」と一旦通り過ぎた後で、「どう考えてもやっぱりおかしいな」と戻って写真を撮った。
この家の人は玄関扉を開ける度に冷蔵庫に扉がぶつかるのだ。その隙間をすり抜けるようにして毎日出かけているのだな。近所の人にとっても最早玄関先に冷蔵庫のあるこの光景が当たり前の事になっているのだろうな。

そんな裏通りにひっそりあるのが、コンビニ「ポプラ」
こういう路地にはセブン・イレブンやローソンは眩しすぎるのだ。ポプラがお似合いなのだ。
ちょっとした野菜やしょぼい仏花まで置いているような。

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ポプラ ベーカリーストリート(製造元:伊藤製パン) 105円
パン:普通の、ファミマ系
クリーム: …薬みたいな後味がしておいしくない。

こういう街に、上京してきたばかりの若者たちは住むのだろう。
「憧れの世田谷区三軒茶屋!」と胸ときめかせて。不動産屋の謳い文句に書かれた「コンビニ徒歩1分」という言葉に心躍らせて、若干寂れた感のあるポプラにわざわざ夜中に出かけたりするのであろう。
そうして、この薬臭いクリームパンを食べて、東京の水道水を飲んで、ホームシックで泣くのであろう。
そんな上京物語がお似合いのクリームパン。