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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

野球の音

去年テレビを処分した。
スカパーが受信できない建物なので野球中継も見れず、テレビ自体ほとんど見なくなったし、何より、ベッドとテレビがぎゅっと置いてある自分の部屋がビジネスホテルの部屋のように見えてうんざりした。
それで今年のWBCもプロ野球もラジオ中継を聴いている。
今はスマホでラジオが聴けるのでチューニングに気を使ったりしないでいい。電子レンジを使ってもガリガリ言ったりしないのでとても便利。

ラジオで野球中継を聴きながら洗い物をしたり、洗濯物を畳んだりしていると、まるで祖父母の家にいるような気持ちになる。
野球中継をラジオで聴くような祖父母はいなかったのに。
大林宣彦の映画のような、しんとして、ちょっと薄暗くてお仏壇の匂いのする部屋を想像するけれど、そんな部屋にいた事があるわけでもない。
夏の終わりの夕方のような気分がするけれど、まだ春先。

古いラジオは今起きていることを語っているのだが
声はまるで過去から聞こえてくるようだ
おなじみのフェーディングおなじみの雑音
淡々とした傍観者のアクセントで語られる戦果
           谷川俊太郎詩集「世間知ラズ」より「古いラジオ」


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これは去年の夏の終わりの神宮球場の花火。
あれはヤクルトとカープの試合だった。神宮球場に向かう銀座線の中で、カープファンが佐々岡の引退試合について熱く語り、「オレ、今でも思いだしたら泣くもん」と言っていた。
その話を微笑ましく聞きながら、ああ、佐々岡の引退試合の日は法事で広島にいたんだったな、と思い出した。夕方、乗り込んだタクシーはカープ戦のラジオ中継を流しながら広島市民球場の脇を通り過ぎた。


ラジオや、テレビや、応援や、ビールの売り子、球場の外に漏れてくる歓声、金属バットの打球音、球場アナウンス、サイレン・・・
野球の音にはどれも、たくさんの思い出があって、その時はただなんとなく聞き流しているのに、後になると、胸がぎゅっとするほど切なく思い出す。
そうして心底思うのだ。やっぱり、野球っていいな、と。

今週末からは高校野球春季大会を見に行く予定。
プロ野球の音もいいけれど、球場に響く金属バットの音や、球児たちの掛け声、野球部マネージャーの不慣れなアナウンスが待ち遠しくて、ここ最近の私はずっとそわそわしている。

世間知ラズ

世間知ラズ