普通の女
「3びきのくま」という非常にシュールな童話があって、女の子が森の中で無人のクマの家を見つけ、勝手に中に入る。そこにはお父さん、お母さん、子供用に大中小のスープが並んでおり、女の子は勝手に「これがちょうどいいわ」とか言いながらスープを飲んでしまうのだ。
あの、大中小のスープボウルがたまに脳裏をよぎる。お父さんは一番大きい、お母さんは中くらい、子供用は小さい。これは自明の事であり、お母さんがお父さんよりも大食らいだったり、お父さんが「オレは食欲ないから子供用で十分だよ」などと言ったりしてはいけないのだな、と。
どこも大抵そうなのだとは思うが、社員食堂において、普通ライスを頼むのは大概男性であり、女性は小ライスを頼むものだ。
食堂のおばちゃんたちもそのつもりでご飯をよそって待ち構えている。
けれど、私はね、私は本当はね、普通ライスでいけるのよ!!
今の会社では私も自分を偽って小ライスで通しているが、前の会社にいた頃は若さもあり、普通ライスを頼んでいた。あの会社で普通ライスを食べる女性は私と、先輩のりよさんだけだった。
色白で楚々としたりよさんは、ある日静かに言った。
「気分が落ち込んだ時にはね、自分に確認するの。お腹がすいていないか、睡眠は足りているか、寒くないか。これで大体大丈夫」
りよさんも会社を辞め、随分長いことお会いしていないが、今となっても時折あの素晴らしい教えを思い出し、自分に指さし確認をする。
お腹がすいていないか。睡眠は足りているか。寒くはないか。
前田パン(横浜市青葉区黒須田) クリームパン 147円
パン:もちもち
クリーム:ゼラチンでも入ってるのかなと言うほどぶるんぶるんのバニラ風味クリーム。
☆☆☆
このお店のパンはどれもとても小さくて、とても高価だ。クリームパンは軟式テニスボール半分くらいの大きさ。
おしゃれマダム達はきっと言うんだろう。
「これくらいのサイズがちょうどいいよね」「小ぶりで食べやすいよね」って。
固いクリームについた歯型を眺めながら思い出した。
自分がこれでは満足できない普通盛りライスの女であったことを。
そして、あの会社の社員食堂で私のために小ライスをよそってくれようとした新人のおばちゃんを制し「この子はね!普通盛り!たくさん食べてたくさん働く子なのよ!」と大声で言ってくれたベテランのおばちゃんの事を・・・。
- 作者: ポール・ガルドン,多田裕美
- 出版社/メーカー: ほるぷ出版
- 発売日: 1975/10
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