90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

愛だけでは

会社の近くのパン屋さんは、朝早くから開いていて、良心的なお値段のお惣菜パンがずらりと並んでいる上に、こんなレトロフレンチな紙袋に入れてくれるので、キュンとして思わずシルヴィ・バルタンなんか口ずさんでしまいそうになる。

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夕方にはほとんどパンが売り切れてしまうので、朝、少し早起きしてクリームパンを買って出社した。
この可愛らしい紙袋に胸ときめかせながら。

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ファリーヌキムラヤ(千代田区飯田橋) クリームパン 140円
パン:普通
クリーム:バニラの香料が強くてあまり好みじゃなかった。
☆☆


チェーン店のパン屋さんや気取ったブーランジェリー、それからコンビニのパン。
どれも重宝してはいるけれど、個人的にはやっぱり昔ながらの街のパン屋さんを応援したい。
嗚呼、それなのに、それなのに。
残念ながらどうしても昔ながらの街のパン屋さんのクリームパンはイマイチな事が多い。
さっきまではシルヴィ・バルタンの「あなたのとりこ」が流れていた頭の中に、悲しげな「シェルブールの雨傘」のメロディが流れだす。

人生には、愛情だけでは乗り越えられないものがあるのだ。
若いジュヌヴィエーブが、恋人の不在、来ない手紙を待ち続ける、妊娠、山積みの請求書という不安に耐え切れず、安定を求めて別の男の人と結婚してしまったように。
それでも、想いは消えていないから、彼女は生まれた子供にかつての恋人の名前をつける。
そしてある雨の日、立ち寄ったガソリンスタンドでかつての恋人と再開し、想いを隠して素っ気ない挨拶だけで別れる。


始業前の会社のデスクで、クリームパンを片手に憂いの溜息をついている私の頭の中で「シェルブールの雨傘」が上映されていたなんて、まさか誰も思わないでしょうね。
きっと、ある雨の日、私はもう一度あのパン屋さんへ行くでしょう。
そして、悲しみと切なさを胸に隠して、そっとクリームパンを見つめるでしょう。
カトリーヌ・ドヌーヴになりきって。