90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

生きている身体

以前にNHKの「バレエの饗宴」でNoismというカンパニーのダンスを見て、心を奪われた。
それからずっと、いつか見たいと思っていたのだけれど、活動の拠点が新潟なのでそうそう見に行くこともできずにいた。
そのNoismの主宰者の金森穣の作品「Solo for 2」を新国立劇場バレエ団が踊るというので、3月末に見に行ってきた。

f:id:mame90:20130415225305j:plain

正直言って、私はダンスのことなど全くわからない。バレエを習ったこともないし、踊りたいと思ったこともない。
体を動かすこと自体が苦手だから、体で何かを表現する人、というのがとても高尚な未知の生き物のように思える。
ただ、美しいものが見たいと思ってバレエの饗宴を見て、そしてその中で一番生々しかったNoismに心を鷲掴みにされたのだ。

f:id:mame90:20130415224502j:plain

NHKで見たプログラムが「Solo for 2」だったのかどうかもわからないまま見に行って、始まった途端に「そうだ、これだった」と思った。
バイオリンの音だけが響く薄暗い舞台の上。不安定な椅子の上に座るダンサー。
テレビで見た時は、あの椅子が、私にとってとどめだった。
舞台を実際に見た日は、壁にゆらゆらと映る影が、とどめだった。

バレエの饗宴で見たNoism版は新国立劇場バレエ団よりも、もっと切羽詰まったような感じがあった。
新国立劇場バレエ団の米沢唯さんは体つきも動きも健やかで素直で、そういう子が何かに呑み込まれて戦っていくような痛々しさがあった。

テレビで1度見ただけなのに、ダンスなど何も知らないのに、どうしてこんなに「特別」というアラームが鳴り続けるんだろう。
もう少し若い時だったら、きっとこのカンパニーが好きではなかったと思う。
生々しさが気持ち悪くて、恐ろしくて、目のあたりがするのが恐くて、避けていたのだと思う。
今は、不安定な椅子や、壁に映る影、耳障りなくらいにキュッキュッと音をたてるダンスシューズから、そして統制され計算された動きをする肉体から、人間について、動物について、生きることについて、セクシャリティについて、欲について、愛情について、冷酷について、とりとめもなく考える。


あれからずっと「特別」のアラームがなりつづけているので、6月頭に神奈川芸術劇場で上演されるNoism1の新作「ZA-ZA ~祈りと欲望の間」のチケットも買ってしまった。
見に行く日のことが単純に楽しみでもあり、そしてまだ自分の知らない何か大きな衝動に呑み込まれることを慄きながら期待している。
まるで新婚初夜の生娘のように。