90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

小人さんいらっしゃい

面倒くさがりなもので「裁断した革を置いておくと、夜中に小人が出てきて、靴を作ってくれる」というグリム童話の「こびとの靴屋」という話が結構好きだ。
それで、若かりし日の私は母の手伝いをしながら事あるごとに「ああ、この洗ったお皿もこのままにしておいたら夜中に小人が拭きあげてしまってくれないかしら」「靴磨きの道具を玄関に置いておいたら夜中に小人が靴磨きしてくれないかしら」と願いを口にしては母に怒られていた。
「あんたはね、なんでも小人がどうにかしてくれると思ってるんでしょ!!人生に小人はいないの!いい加減に目を覚ましなさい!」

「もう!本気で言ってるわけないじゃん!なんなのこの人。マジ切れして“小人”とか言っちゃって」と当時の私も憤慨していたが、本当は心のどこかで小人を期待し、待ちわびていたのだと思う。

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丘の上に建つ昔ながらのパン屋さんは、お茶目な感じのコックさんの看板が目印。
昔はみんなこういう物に胸ときめかせたりしていたんだろうが、今、色褪せたその姿を見るとバブルの名残のようで複雑な気持ちになる。
おまけに、このお店はすぐ近くにお洒落な人気パン屋さんができて、すっかりお客さんをとられてしまっているために物悲しさもひとしおだ。
まるで軽井沢や清里にある、閉店して打ち捨てられたお店のような佇まいだったので、「ここも閉店してるのかな」と心配しながら近づいたところ、節電営業のような薄暗さでひっそりと営業していた。

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リスコリヌ 木村屋(川崎市麻生区王禅寺西) クリームパン 110円
パン:硬くて味はない
クリーム:炊いたやつ(´;ω;`)

サランラップにくるまれた固い感触のクリームパンに最初から少し不穏な予感はしていたのだけれど、やっぱりすごく苦手なタイプのクリームパンで、余計にこのお店の行く末が心配になる。

物語だったら、夜中に小人が登場して、得も言われぬ素晴らしい味のカスタードクリームを作るとか、遥か遠くの国まで噂が届く程美味しいパンを焼きあげるとかで、傾いた店を立て直してくれる所なんだけど・・・。
もそもそとクリームパンを食べながら、そんな事を考えて、ああ、またお母さんに叱られるな、と思った。
「あなたは小人がいると思ってるんでしょ!」って。
いるとは思ってないけど、いてほしいのよ・・・。

こびとのくつや

こびとのくつや