90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

かえるとまめ

昔、国語の教科書に、アーノルド・ローベルの「おてがみ」という物語が載っていた。生まれてこの方、一度も手紙をもらったことのない事を嘆き悲しむがまくんに、かえるくんがお手紙を書いてやるのだ。「きみのともだち かえるより」と。
その手紙を届けるのは郵便屋さんのかたつむりくんだ。かたつむりくんは胸をはって自慢げに言う。「まかしとけ!すぐやるぜ!」
そして意気揚々と張り切って配達に出るが、何せかたつむり。手紙が届くのは4日後だ。がまくんとかえるくんは二人仲良く玄関に座って手紙が届くのを待つ。

ふたりはともだち (ミセスこどもの本)

ふたりはともだち (ミセスこどもの本)

さて、お若い方はご存じないかもしれないが、大昔は携帯電話からEメールは送れなかったのです。ショートメールしかなかったのです。おまけにキャリアが違う場合にはポケベルのようにメッセージセンターに電話をして、「1112324493」で「アイシテル」などという暗号を打ち込まなければならなかったのです。
だから当然打ち間違いはよくあった。ある日友人から「グレイノツルリコン!」というメッセージが届いて何事かと思ったら、「GLAYのTERU離婚!」と言いたいらしかった。ツルって!
爆笑する私に友人は悲しげな顔をして言った。「いっつも間違えちゃうのよ。自分の名前を入力する時もさ、一文字間違えて“かえる”って送っちゃうのね」
それで私も慌てて慰める。「大丈夫だよ。私も自分の名前、いっつも一文字間違えて“まめ”って送っちゃうもの」
「それじゃあ、私たち、かえるとまめだね」と玄関に座るがまくんとかえるくんのように仲良しな気持ちで思った。それがハンドルネームの由来でもあるのだけど。

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これは先日、かえるさんが「ほら、これ見たら元気がでるよ」と何故だか突然送ってきたザク豆腐の写真。その後「テレビでマッキーが“もう恋なんてしない”を歌ってるよ!」というメールも来た。
・・・本当にあの人、いつも突拍子もないんだから、と笑っちゃいながらも、まるで「きみのともだち かえるより」という手紙を受け取ったがまくんみたいな幸福な気持ちになった。

昨夜もかえるさんと舞台を見に行って、ああだこうだと感想を言ったりモノマネしながらお茶を飲んで、午前様で帰ってきた。玄関に座ってお手紙を待つがまくんとかえるくんみたいに、仲良く笑い合いながら終電間近の電車に揺られていたかえるとまめ。
あの人といるといつも、こうして物語のように無邪気な気持ちでいられるから好き。
・・・って手紙を今度書こうかしら。