90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

十万石

会社で毎月1回、震災復興支援の物産展が開かれる。昨日は福島物産展だったのでままどおるを買ってきた。おいしいおいしい!と上機嫌で包み紙を眺めていたら、製造会社名を見つけた。「三万石」
それで更ににんまりするのだ。「勝ったぜ!」と。

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中学生の時に神奈川から埼玉に引っ越した。
同じ関東首都圏内だし、と何の気構えもなく転校した私を待ち受けていたのは、嘘でしょ?と驚くような田舎コミュニティであった。1クラスにつきアサミ、ヒラオカ、ミヤオカという名字が2ペアくらいずついて、3組のミヤオカさんちが本家だとか、1組のヒラオカさんちは分家の子だからお葬式に呼んでもらえなかったとか、そんな事聞かされても!
歳男、歳女は大晦日の夜に誰にも見られないようにして、家から一番近い曲がり角に、割り箸に紙垂をつけたやつを刺してこなきゃいけないという不思議な風習だとか。
そして何より仰天したのはテレビ埼玉(現テレ玉)のCMだ。あの時だって1990年代だった。それなのに、嗚呼、何故テレビ埼玉は「自動ドアの開け方」などというおかしなCMを流していたのでしょう。「ドアの前に立って下さい」という女性のアナウンスを聞きながら私は口をぽかんと開けていた。あまりの事に友人に「大変!」と訴えると、友人は事も無げに「あれより十万石饅頭の方がすごいでしょ」と言った。

・・・うん・・・。すごい・・・ね。すごい。
それで中学高校時代を「風が語りかけます」「うまい!うますぎる!」とか言いながら過ごしたら、いつの間にか埼玉愛も芽生えた。

そんな高校時代を一緒に過ごした友人たちと、いつか車で延々走っているうちに金沢に辿り着いた。
「ここどこ?」「百万石って書いてあるから金沢なんじゃねえの?」
確かに目の前のパチンコ屋の名前すら「百万石」、「理容室百万石」、「喫茶百万石」。至る所で百万石アピールだ。
それで我々埼玉っ子はぎりぎりと奥歯を噛み締める。
「くっそ!成金アピールしやがって!」「やっぱ敵わないよね」「俺ら十万石だもんな」「でも、うまい!うますぎる!じゃん!」「いや、こっちにはきっと、それこそ金の最中があるんじゃねえか?百万石モナカ的な」
なんとなく、あのきらきらとした百万石アピールに負けてすごすごと金沢を後にしたあの日。

二十歳で神奈川に戻ってきたので、埼玉愛もだいぶ薄れてきたけれど、石高となると愛が蘇るのはひとえに十万石饅頭のせい。
そんな訳で今日から始まる甲子園、それとなく浦和学院も応援しているが、初戦の相手は仙台育英か。仙台藩62万石か・・・。石高じゃ負けてるな。
十万石饅頭と萩の月という勝負もちょっと分が悪いけど、頑張ってセンバツ優勝校らしい戦いをして頂きたいものですな。