90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

ほしいこたえ

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ  俵万智

季節外れな短歌だけれど、そう、ただ、「寒いね」って言ってもらいたいだけのことがある。自分の言ったことに「そうだね」って言って優しくされたいだけの時がある。

いつか雷がひどかった日、ちょうど飲み友達のまっちゃんからメールが来た。大学生のまっちゃんはヒッピースタイルの男の子で、ドレッドヘアーで、いつも派手で奇抜なモンペみたいなズボンをはいていて、お風呂もあんまり入らないから髪も割とベタベタで、鼻かんだティッシュはその辺に置きっぱなし、清潔感とはおよそ程遠くて全然イケメンじゃない、そのくせして妙に女好きのする男の子だった。

あの日、少しだけ甘えん坊気分だった私が、「雷がすごくて怖い」と返信したら、まっちゃんは「こっちもすごい、怖いね」って「大丈夫、心配するな」って返信をくれたので、「ああ、こりゃまっちゃんがモテるはずだわ、アイツ、やるなあ!!下手したら、まっちゃんのこと好きになっちゃうもんなあ」と、トキめいて、嬉しくて暖かい気分になって眠った。

別に、彼氏でもなんでもないし、恋愛感情もないけれど、優しくしてくれて、欲しい答えをくれたなら、それだけでちょっといい夢見ながら眠れるってモンじゃない、そうでしょう?

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これは、いつかの冬、仙台の友達に定義山に連れて行ってもらう途中で見た大倉ダム。久しぶりに会った女友達と、会わなかった時間が嘘みたいにお互いわかりあえたことにびっくりしながら、ダムのひっそりとした孤独な佇まいに心奪われていた。


金曜日の夜、久々に雷が鳴って、いつもだったら平気な顔をしているのに、突然甘えん坊スイッチが入ったので、男友達何人かに「雷怖い」とメールしたら、一人は「雷なんて鳴っていない」という返事をよこし、一人は雷なんて全く無視した返事をしてきた。

それで、ちょっと寂しくなって「ああ、こういう甘えたい気分の時はやっぱり恋人が必要なのかしら」と思ったりもしたけど、考えてみれば、恋人がいたらいたで、望んだような答えをくれないことにいつも苛立っていたな。母もしょっちゅう、父のことを「あの人は本当に気が利かない、どうしてこういう時にそういう事言うの!」と怒っていたから、きっと結婚していたって望むような答えはもらえないんだろう。
「男と女はすれ違い」って昔チェッカーズも歌っていたもんな。
いつだって、恋人同士で手をつないでいたって、布団の中でさえ、「どうして余計な事言うの、どうしてただ「そうだね」って「寒いね」「怖いね」って言ってくれないの」と、不意に寂しくて孤独な気持ちになったりしていた。
向こうは向こうで、「どうして俺の望む答えをくれないのか」と思っていたのかもしれない。

友達でも恋人でも例え夫婦でも、男と女はそうやって、欲しい答えをもらえないまま、欲しがっている答えをあげられないまま、すれ違い続けるんだろう。
ごくたまに、一瞬だけ、欲しい答えをかすめたりして、その思い出だけで胸トキめかせて生きていくんだろう。
ただ、そうだねって言って欲しい、それだけの望みなのに。