肉曜日
「あのお肉どうするの?」
私は目に涙を溜めてそう言った。
「捨てなきゃいけないの?あのかわいそうなお肉」
私は床に座り込んで泣いた。しくしくと音がするような泣き方で泣いた。
「私はお肉が食べたかったんだよお」
山田詠美 「ベッドタイムアイズ」
ここだけ読むと、なんだなんだ、このお肉大好きっ子は、と思うだろうが、これは恋人が軍に連行され別れなければいけない二人が、残された短い時間に必死で言葉を交わす切ないシーンだ。
おまけにこのちょっと前、二人でディナーに食べようとこのお肉を用意する場面や「きっと彼はこんな風に肉を食べる」と妄想するシーンの肉の描写は凄まじく美味しそうで、夜中に肉!!!肉持ってこい!!と言いたくなるほどなのだ。
もうさすがに肉は胸焼けする年頃だが、かつて胸の内に芽生えた肉への情熱に思いを馳せつつ、パソコンの検索窓に「肉」と一言打ち込むと、google先生はささっと商魂たくましさを顕わにする。
肉はアマゾンで!!そ、そうなの?アマゾンで買うものなの!?
半信半疑で、クリックするとこんなのが載っていて、ひーーー(@_@。と驚く。ワニ肉!さすがアマゾンだけあるな!
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先週の金曜日は会社の同僚と飲み会でサムギョプサルを食べてきた。後輩男子は元気に言っていた。「いやー、肉が食いたかったんスよー!だってこの前、焼き肉行くはずだったのにいきなり焼き鳥に変更になったんスよ?マジないわー」
そして張り切った彼は散々サムギョプサルを食べて、O-157の兄弟のようなOシリーズの感染症にかかり、月曜火曜と会社を休んだ。水曜日に出社してきた彼は言っていた。
「よく焼きましょうね、お肉は逃げていきませんからって看護婦さんに言われました」
そう・・・、あなたあの時、焼けるのも待てないほどがっついてたのね。全くとんだ肉食系男子ね!
水曜日は会社で献血もあった。以前に「健康診断で貧血マークが出なくなるまで来ないでくださいね」と断られたので行くつもりはなかったが、主任が「やる前から諦めるな!行って来い!そしてお菓子をもらって来い!献血できなくても参加賞のお菓子はもらえるはずだ!」と騒ぐので行ってきた。やはりダメであった。
血圧を測ってくれるおじいさん先生は、飄々とした調子で言った。
「普通にお肉食べれば大丈夫なはずなんだけどなあ。お肉食べなさいよ、お肉。何もね、レバー食べろとか赤身食べろとか面倒なこと言わないから。ただ普通に牛肉とか豚肉とか食べたらいいんだから、ね。お肉食べなさい」
・・・食べたんだけどなあ、金曜日に。今日のお弁当だってミートボール持って行ったんだけどなあ。夕飯は肉を食べようかしら、ダメだわ、今夜は卵を食べないと、あれもう賞味期限すぎてる・・・。肉、かあ。
こうして胸焼けしそうなほど肉のことばかり考えているうちに水曜日は過ぎ去ったのでありました。