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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

好むと好まざると

自由研究 ごはん

父方の親戚筋はみんな広島で、お墓も広島にある。広島のお墓の怖い所はほぼ全ての墓石に「○○ 5歳 昭和20年8月6日」などと、原爆で亡くなった方の名前がずらっと並んでいるところだ。一つの墓石に同じ日に亡くなった名前が2つも3つも刻まれているのを、顔を強張らせて読んでまわり、原爆ってジェノサイドだな、と心底ぞっとする。

親戚づきあいが薄く、法事やお葬式でしか広島に行かないので、ほとんど観光をしたことがない。「あーあ、せっかく広島に行ってんのに牡蠣もお好み焼きも食えねえんだもんな」とぼやく弟に、牡蠣もお好み焼きも苦手な私は「しょうがないじゃん」と適当な相槌を打つ。
そう、お好み焼きはちょっと苦手。濃い味にすぐに飽きてしまうし、お好み焼き屋に行くと「我こそがお好み焼きである!!」と名乗りをあげたくなるほど全身がお好み臭に包まれるんだもの。

先日、思いがけず生協からキャベツが1玉届いてしまい、なんとなく「久々にお好み焼きでもしてみるか」と気が向いて、お好み焼きの作り方を検索した。普通の人なら検索などせずともきっと作れるのだろうけれど、何せ苦手だったもので作り方もおぼつかないのだ。

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参考になったのは、オタフクソースのホームページ。
レシピも参考になったが、この会社のお好み焼きにかける情熱ときたらすごすぎる。まずお好み焼き館というショールーム兼お好み焼き研修施設がある。お好み焼き課というお好み焼きの作り方をレクチャーしたり、広報活動を行う部署がある。更に学園祭応援企画があり、お好み焼き屋台に必要な道具や材料を貸出&プレゼントしてくれる。極めつけにお好み焼き店開業研修を全国の会場で行っている。
なんとすごい!ここまでお好み焼きの普及に情熱を注いでいる会社が他にあるか!・・・と思ったが、ミツワソースを出しているサンフーズも開業サポートを行っているようだ。

お好み焼きにはオタフクお好みソース | オタフクソース株式会社

広島のソースに比べて関西のお好み焼きソースは辛口らしい。そして関西風お好み焼きソースを出しているオリバーソースやイカリソースは特に開業サポートは行っていないようだった。
・・・どうして、広島のソース会社はこんなにお好み焼き屋をサポートしているのだろう、とWikipediaや会社沿革を読んだりしていたら、戦争や原爆で夫を亡くした女性が店を始めたとか、中国山地の豪雪で離農した家庭の主婦が店を始めた、今でも老婦人が一人で切り盛りする店が残っているのはそのせいだ、などという、一人で生きる女の歴史や、大正時代から続く店を原爆で全て失ってゼロから復興した、という会社の歴史が書いてあった。広島の歴史はいつも必ず原爆という二文字に突き当たるので、あの墓石を読んだ日のようにドキっとする。

そうか、好むと好まざるとに関わらず、生きるためにお好み焼きを焼き、生きていくためにソースを作り、お店をサポートして普及活動を行って、そして今日があるのか。
それならば、好むと好まざるとに関わらず、ここに1玉のキャベツがあるのだから、私もお好み焼きを焼こう。そしてオタフクソースを塗ろう。
そう誓った。そばは入れないけれど。