90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

受け入れる男

年の離れた弟二人は年子で、身内から見ればまるで違う顔に見えるが、他人から見ると双子のようにそっくりらしい。それで幼い頃は大きさのみで二人を区別し「たまごちゃん」と「うずらちゃん」と人から呼ばれていた。もちろんたまごが長男、うずらが次男。命名者は近所のスギタさん。
もう二人とも所帯持ちのいい大人だが、サイズ比率はいまだにたまごとうずら。性格は正反対。たまご氏はおっとりぼんやり動じないタイプ、うずら氏はきっちり細かい小心者。

先日、うずら氏が新婚旅行から帰ってきて、お土産をくれると言うので、久々に家族全員と祖母で集まって食事会をした。新婚旅行の行先はスウェーデンやノルウェー。お洒落な写真を見せてもらったり、可愛い雑貨やお菓子を頂いたり。

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母も負けじと「これ使う?」「あ、あれを渡さなきゃ」と実家にある様々な食材や雑貨を出してくる。私とたまご氏はそれを片耳で聞き流して「あー、うん、ありがとう」とぼんやり答えるのみだが、うずら氏の検閲は厳しい。「いらない」「悪いけどうちにはそういうものは置かないから」
何せ、自分好みのアーバンコーディネイトなお住まいを作り上げるため、隅々まで目を光らせているのだ。
「キャラクター物の玄関マットなんて置こうものなら怒って帰ってこなくなる」とうずら嫁は笑う。たまご嫁は「えー、うちなんてキャラクター物ばっかりですよー」と言う。確かにあの家はすごかった。某ネズミーランドのようであった。ディズニー好きな嫁の隣で、夫であるたまご氏は、ケーキのセロファンについたクリームを無邪気に掬い取りながら言った。
「俺は何でも受け入れる男だから。」
・・・う、うん・・・そうね・・・そうよね。

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これは、うずら氏が北欧で買ってきてくれた金太郎飴で、逆さになっているけどバイキング船の絵が描いてある。
みんなが写真を見ながらおしゃべりに興じている間、マイペースなたまご氏は一人、全てのお菓子を集めて分類し、なるべく均等に分けては紙袋に詰めていた。まるで「銀河鉄道の夜」のジョバンニが活字を集めるような真剣さで。
そして綺麗にわけた金太郎飴の余りの一つを口に放り込み、黙ってみんなの話を聞いている。手持無沙汰の私も弟にならって金太郎飴を口に放り込んだはいいが、「ぐはあ」と声をあげそうになった。

こ、こ、こ、この見た目の可愛らしい飴ちゃん、主任が買ってきたサルミアッキの味がする!
私が涙目で言うと、母は「外国人の味覚に合うものなだけよ、そんなにまずい訳が」と口に入れるもすぐに「・・・うっ!これはムリ、ごめんなさい」と吐き出し、うずら氏は目を見開いて「ええ?本当?ごめんね?俺、あれだけは絶対に避けて通ろうと思ってたのに!ああ、会社で配らなくてよかった!」と言って、自分は決して口に入れなかった。
その惨状を横目に、「ああ、なんか変な味だなとは思ったんだけど」と平然と飴を舐め続けるたまご氏。

・・・この子、本当にすべてを受け入れる子なんだな。わが弟ながら、お釈迦様の如き後光が見えるようだわ、と感心した。

尚、この飴はもちろん、翌日会社で主任にあげた。
「うわあ、ミントが効いてる分、サルミアッキよりまずーい!」「よーし、二つをいっぺんに口に入れて戦わせてみよう!」と楽しんでおられたご様子に、この人もまた、異国の食べ物に関しては割となんでも受け入れる男だな、と思った。