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オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

オンディーヌ (光文社古典新訳文庫)

ジャン・ジロドゥ作の戯曲「オンディーヌ」の主人公オンディーヌは人間の世界で暮らす水の精。「あとひと月で十五歳。でも生まれたのは何百年も前。死ぬってことないんです」との事。
一目惚れした相手は遍歴の騎士ハンス。「ハンスとオンディーヌ、これがこの世で一番美しい一組の名前」とハンスに甘えて見せるも、腹ペコハンスの前に出された夕食の鱒に「茹でたのね!」と突然激怒。なぜなら鱒は水の精オンディーヌの友達だから。
そして怒りのあまり、「食べてごらん!!ほら、食べてごらん!!」と鱒を窓から投げ捨てるという暴挙に出る、不思議少女。まあ、水の精だから仕方ないか。

事あるごとに友人たちと、フランス演劇に登場する女たちの電波ぶりと来たらどうよ!と驚愕し、飲み会に魚が出れば「食べてごらん!」「ほら!食べてごらん!」と魚を投げつけるオンディーヌのモノマネをして過ごしてきたが、ある日、演劇雑誌にどかーんと「オンディーヌは全ての男にとって理想の女である」という記事が載っていて、呆然とした。
それでまた友人たちと「マジで!?魚投げなら負けないけど?」「どういう事なの!?」「オンディーヌ、あの子、恋人のタンスも勝手に湖の底に投げ込むような破天荒さなのに?」とわあわあ言ってはビールなど飲んだ。

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ある日、同僚のかとちゃんがうふうふ笑いながら「突然なんですけどー、結婚する事になりました」と言いだした。
うわー、良かったねえ!おめでとう!あの、お友達から紹介された人でしょう?お付き合いのきっかけは何だったの?
みんなで矢継ぎ早に質問すると、かとちゃんは、頬を染めて言った。
「ほら、この前、お客様から魚の干物頂いたじゃないですか?で、二人で食べようと思って彼の家に行ったのがきっかけです」

・・・待って!あの干物、私ももらった!それで浮かれて散々「食べてごらん!」とオンディーヌごっこをした挙句、家で一人で焼いて食べました…。
いつの間にか話の輪に加わっていた警備のおじさんは「あー、それじゃダメよー。そういうとこがアンタの敗因だなあ」と笑った。

嗚呼!そこか!そこだったのか!
オンディーヌは魚を投げてハンスの心をつかみ、かとちゃんは魚を持って駆けつけて、彼の心をつかんだ。
恋のマストアイテム、それは魚だったのね!

・・・なんて思いつつ、魚を持って駆けつける先もないので、昨夜も一人でぶりかまの塩焼きを食べた。そう言えば龍の子太郎のお母さんは魚を一人で食べた咎で龍に姿を変えられてしまったんだったな。
魚とは、かくも女の人生を左右する食べ物だったのね。