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子やぎ日和

おおかみと七ひきのこやぎ―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本)

おおかみと七ひきのこやぎ―グリム童話 (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本)

ある所にお母さん山羊と7匹の子やぎが暮らしていました。
ある日、お母さん山羊は街へ出かけることになり、子やぎたちに「誰が来ても、決してドアを開けてはいけませんよ」と注意して家を出ました。
そこへ狼がやって来て、がらがら声で「お母さんですよ」と言いますが子やぎたちはすぐに見破ってしまいドアを開けません。
そこで狼はお店でチョークを買い、それを頬張って声を変え再び子やぎたちの家へ行きました。
狼が「お母さんですよ」と言うと、子やぎたちははドアの隙間から足を見せて欲しいとお願いしました。狼の足は真っ黒だったのでまたも見破られてしまいました。
狼は次に、小麦粉を足に塗りたくって真っ白にし、三たび子やぎたちの家へ。
ドアの隙間から白い足を見た子やぎたちは大喜びでドアを開け、狼に丸呑みにされてしまいます。
間一髪で柱時計の中に身を潜めた末っ子のやぎだけは無事でした。


読み返してみると、なんとツッコミ所の多い話だろう。狼の計画性のなさと場当たり的対応、2度も狼に来襲されているというのに、3度めで簡単に騙される子やぎたち。チョークで声を変えるという謎。そして苦労の割に、よく噛んで味わいもせず、子やぎを丸呑み。
それが仇となり、狼は眠っている間に腹を裂かれ、子ヤギたちが救出され、代わりにお腹に石を詰めて縫合される。とってもバイオレンス。寝ている間に腎臓を取られたりする事件みたい。お母さん山羊の復讐、恐るべし。
そしてお腹が重くて井戸に落ちて死ぬ。丸呑みせずによく噛んでいればこんなことにはならなかったのに。

とは言え、子供の頃、この物語が好きだった。
我が家はわりと当たり前に親がいなかったので、改めて「お留守番」というような事はなかった。「めったにない、特別な行事としてのお留守番、出掛けに親が心配しながら、振り返り振り返り家を出て行く」というのは「守られて大事にされている子ども」のようで「いいなあ」と思った。

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本日は、主任が有給をとってお休みだ。毎年この時期、あの人は那覇マラソンに出走し、翌日に有給を取る。その頃になると毎日そわそわして、関係部署のあちこちに電話をかけ「僕、◯日はお休みするんで、うちの娘たちをよろしくお願いします」とお父さんごっこを始める。
そして金曜日になると、厳かに「何かあったら、すぐおじいちゃんに相談するように」と課長をおじいちゃんにしたり、「知らない人が来てもドアをあけちゃダメだよ」なんてお母さん山羊みたいなことを言い出したり、月曜日に出社すれば「ケンカしないで仲良くね」という置き手紙と共におやつが置かれていたりする。

そのたびにみんなで、「あの人ってホントおかしな人ね」と笑いつつ、密かに「なんだか七匹の子やぎになったみたいだな、お留守番だなあ」と嬉しくなっている。
さて、今日はお留守番。子やぎ日和。