90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

Do It Yourself

キリストの最期の7日間を題材にしたミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースター」の中で、群衆に「貧しいから助けてくれ」「歩けないから治してくれ」「目が見えないから治してくれ」と詰め寄られた若きジーザスはテンパって「自分で治せ!!」と叫ぶ。
神様も楽じゃないわね。

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最近、ふと、今まで避けてきた「大草原の小さな家」シリーズを読んでみようかと思い立った。これまであのシリーズはなんとなく「健全な家庭で愛されて健やかに育つ女の子の夢いっぱいの日々、赤毛のアンのような感じ」の物語だと思ってきた。
しかし、久々に手にする子ども向け文庫、シリーズ第一作目「大きな森の小さな家」を数ページめくっただけで「あれ?なんか違う」と違和感を抱いた。

物語はインガルス一家の冬支度から始まる。
朝、主人公ローラが目覚めると窓の外の二本の大木の枝に、一匹ずつ、死んだシカがぶら下げてあるのだ。・・・お、おう・・・。
昼ごはんはとりたてのシカの肉。残りは燻製に。皮剥ぎからの手順も詳しく書いてある。
次は豚だ。父さんが森で捕まえてきてから飼育していた野豚。
「寒さがきびしくなり、豚肉を冷凍できるほどになるとすぐ、父さんはその豚を殺すはずになっていました」
当日は親戚のおじさんも肉切り包丁を持って豚を殺す手伝いにくる。
「お湯が沸いてくると二人は豚を殺しにいきます
「父さんはローラとメアリイに、豚の膀胱としっぽをくれる約束をしていました」
その膀胱を何にするかというと、膨らませて風船遊びだ。楽しそうなローラとメアリイ。飛んでいるあの袋は膀胱・・・。

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しっぽはじゅうじゅうと炙り焼きにして骨までしゃぶり、あとは犬にやる娘たち。母さんは大忙しで、肉が骨から全部離れるまでゆっくり豚の頭を煮る。頭肉チーズを作るのだ。豚の頭・・・ね・・・。このあたりも割りと詳しい描写が続く。なんだろう、この物語、とってもサバイバル。赤毛のアンとはちょっと違うみたい・・・あんまり夢多き少女じゃないみたいね・・・。

何より衝撃を受けたのは、ローラの持っている人形だ。ローラはまだ小さいので布人形を持たせてもらえないのだ。
「ローラはハンカチでくるんだトウモロコシの芯しかもっていないのです」
トウモロコシの芯!!

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挿絵を見て更に驚いた。本気でトウモロコシの芯ではないですか!
あまりの衝撃に母親や友人たちに「あのね、大草原の小さな家のローラの持ってる人形がトウモロコシの芯なの・・・」と訴えるも相手にしてもらえず。おお・・・。

更には、チャーリイという、大人を小馬鹿にするやんちゃ坊主が因果応報でスズメバチに刺された後のシーンの挿絵がこれだ。
念のため断っておくが、死んでいない。

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スズメバチに体中刺されたチャーリイに、湿布代わりの泥を塗りたくってシーツでぐるぐるに縛るのだ。
父さんは言う。「いたずらぼうずには、いいみせしめになったよ」
いや、みせしめって・・・スズメバチですよ?アナフィラキシーショックで死ぬやもしれないじゃないですか・・・。

なんと逞しく衝撃的なインガルス一家の生活。私は「大草原の小さな家」をナメていた。もっと砂糖菓子のような夢に溢れた物語かと思っていた。父さんの笑顔が胡散臭い、説教臭い、埃っぽいとまで思ってこれまで避けてきた。
しかし、これは現実のサバイバル指南書と成り得る物語だった。麦わら帽子の作り方も、メイプルシロップの採り方や煮詰め方も載っている。おまけに父さんはライフルの弾まで自分で作る。
「そんなの無理」とか「もっと夢のある物語が読みたかった」なんて甘えたことを言おうものなら、父さんに「あまえんぼうには、いいみせしめになったよ」とか「自分でやれ!」とか言われるんだろう。

今日は図書館にシリーズ2作目の「大草原の小さな家」を借りに行く予定だけれど、性根を入れ替えて気合を入れて読まねばな、と心に誓った。