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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

今夜すべての猫が

実家には入れ替わり立ち代わり猫がいた。
プールに行く途中の私が、捨て猫を拾ってスイミングバッグに入れて持ち帰ったり、剣道に行く途中の弟が拾って、宮本武蔵にちなんで「たけぞう」という名をつけたり、家族で河原にバーベキューをしに行ったら箱に入った捨て猫を見つけて、バーベキューをとりやめて慌てて獣医さんに駆け込んだり。

今でも不思議なのは、実家は団地の5階なのに、ある時、頭を怪我して血まみれの子猫が「助けてくれなきゃお前の家を末代まで祟ってやる!」とばかりに我が家の玄関前で鳴きわめいていた事だ。わざわざうちを選んで階段を上ってきたのか、それとも誰かが我が家の玄関前に連れてきたのか。
とにもかくにも両親が慌てて獣医に連れて行き、治療のために頭の毛を剃られた猫は、はげちゃびんにちなんで「ちゃび」と名付けられ、人にもらわれていくまで1年ほど我が家にいた。

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一人暮らしになっても、どうしても猫が飼いたくて大家さんに内緒でこっそりと猫を飼っていたことがある。真っ黒なオス猫だ。
それで「毎晩毛深い若い男と寝てるの」なんて友達に言って笑っていた。
けれど、ある日彼は女を作って出て行ってしまった。出ていく前の数か月はケンカばかりだった。
「どうだ、すげえだろう」と得意げな顔をして蝉をくわえて帰ってきたあの子を褒めもせず「早く捨ててきて!二度と獲ってこないで!」と叱りつけたり、女を家に連れ込んだ時にほうきを持って叩きだしたりしたので、いい加減あの子も私が嫌になったんだろう。

猫とさえ一緒に暮らせもしないのに他人と暮らすことなどどうしてできようか、とずいぶん落ち込んだ。
あれから猫は飼っていない。
実家も、たけぞうが突然死してから猫を飼わなくなった。

寒い。
今年は靴下を履いて寝るようにしたから湯たんぽはいらないかと思っていたけれど、数日前から湯たんぽも解禁してしまった。
でも、本当は猫がいたらいい。
時々鼻をぴいぴい言わせたり、うるさいくらいに喉をごろごろ言わせながら隣で寝ててくれたらいい。口が臭くても、私を踏んづけて行っても構わない。
湯たんぽよりも猫がいてくれたらいい。

だけど一緒にいたらきっと、トイレの砂をまき散らすことに腹をたてたりするんだろう。いつも心のどこかで気に掛けていることを、まるで縛られているかのように感じてしまうんだろう。「この子がいるから気楽に遊びにいけない」と思ったりするんだろう。またケンカばかりして、また一緒に暮らせなくなるんだろう。もしかしたらたけぞうのように死んでしまうかもしれない。

だから、ただただ祈るばかり。1年前の猫の日のNHK_PRさんのツイートにあったように、この寒空の下、世界中の猫が安心して眠れますように、と。
そしてどうしても寒ければ、今夜一晩くらいは私の布団の中に来てもいいのよ、と。