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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

人の楽しみ

この田辺聖子の短編小説集の中に「篝火草(シクラメン)の窓」という作品がある。線路沿いの家に住む主人公瑠璃はいつも窓辺に赤い花を飾っており、それを毎日通勤電車から眺めていた塚田という男がある日、白いシクラメンの鉢を持って訪ねてくるのだ。
塚田は言う。
「自分は実は毎日の通勤に、おたくの窓の花を眺めて心たのしんでいた者だ」
「ぼくは、あの花の窓の家には、新婚さんが住んではるのかナー、なんて考えてた。カーテンもいつも綺麗やし、生活に弾みありそうで」

こういう出会い方、とても素敵だなと心ときめく。
それから、他人がささやかな事で生活を楽しんでいる様子をそっと覗き見て、心たのしむ塚田の気持ちに強く共感する。

例えば、バス停前のマンションの管理人さんが、毎朝丁寧に水をやったり花がらを取り除いたり植え替えしたりして、マンション周りに美しい花を咲かせていることや、夏場、帰宅途中にいつも前を通るお家から漏れ聞こえる三線の音色が日に日に上手になっていったこと。毎年恒例の京王百貨店の駅弁大会でカニいくら丼買ったよ!という、友達からの嬉しそうな報告だとか。
はてなブログでいつも仲良くしてくれる人たちが食べた美味しそうなご飯、美しい景色、素敵な映画、面白そうな本。

いいな、と思って真似をしたくなる。誰かの毎日の楽しみ方を。
そうしたら、自分の毎日ももっと楽しく素敵になるような気がするから。

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これは渋谷東急のパリヤ

だから、小学校時代の先生が「町田に来たら必ずジェラートを食べる」っていう楽しみ方も、いいなと思って真似をしている。
クリームパンもそうだけど、一度ハマるとあれこれ食べ比べてみたいので、いろんなジェラテリアに出かけたけれど、やっぱり先生が教えてくれたアンティカが一番美味しいと思う。
デパ地下の片隅で、小さなスプーンでジェラートを食べながら、そう言えば、よしもとばななの小説「High and dry(はつ恋)」の中のお母さんもアイスが大好きで、毎日仕事帰りにアイスを食べに行っていて、「その店でアイスを食べるのが、お金のかからない女ふたり、私たちの唯一の贅沢だった」って書いてあったな、アイス食べながら母娘がおしゃべりするところ、いいシーンだったな、と思い出していた。

High and dry(はつ恋) (文春文庫)

High and dry(はつ恋) (文春文庫)

やっぱりそういうところばかり覚えている。誰かの小さなコツ。毎日の楽しみ方、自分の励まし方。日々の彩り方。
そして憧れたり、真似したりする。