90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

ごちそうさま

先月末、小林カツ代が亡くなった。

料理研究家・小林カツ代さん死去「私のレシピは永遠に残るのが嬉しい」 (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース

よそんちの肉じゃが - 90億の神の御名
前の記事でも書いたけれど、カツ代レシピのご飯を作る度にいつも、「まだ目覚めないんだろうか」「大丈夫だろうか」と気にかけていたから、亡くなったニュースを聞いて、ドキっとしたし残念で寂しかったけれど、「やっと楽になれたんじゃないか」と少し安堵するような部分もあった。

そして、次にすぐ思ったことは「肉じゃが作らなきゃ」ということだった。
昨日、やっと作った。
前の記事を書いた時に、関東の肉じゃがは豚肉が主流だと聞いていたので、自信を持って豚肉で。じゃがいもはインカのめざめ。煮崩れしにくいお陰でわりと見栄えよくできたと思う。カツ代レシピに人参はなかったけれど余っていたので、人参も入れた。

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小林カツ代が亡くなった。ああ、彼女のご飯を作らなきゃ。
そう思ったのは多分私だけではないようで、たくさんの人がカツ代レシピの本を引っ張り出したり、カツ代レシピのご飯を作ったりしていたようだ。
ささみんさん(id:kemeko0809)もレシピをまとめていたし
【追悼】小林カツ代さんのレシピよりぬき7選 - ささみんのよりぬきレシピ
よく眺めては素敵ねえとうっとりしている「ばーさんがじーさんに作る食卓」というブログでも追悼の肉じゃがが作られていて、コメント欄でも皆さんがいろんなカツ代レシピの思い出を語っていた。
小林カツ代さんを偲んで : ばーさんがじーさんに作る食卓

あの人が亡くなった。
その事に胸を痛めつつ、でも涙は流さずに彼女のレシピの料理を作る。何度も作る中でそれぞれの家庭のアレンジは加わっているけれど、彼女に教わったことを思い出しながら、いつもより少し丁寧な気持ちで。
そんなことが日本のあちこちで起きていたのなら、それはどんなお葬式よりもずっとずっと素晴らしいことのように思える。

我が家の本棚にある、小林カツ代の料理エッセイ「手料理上手の暮らしメモ」という本の中に、毎回胸を打たれてしまうエッセイがある。NHKの「今日の料理」でチリビーンズを作った回の後で、その料理を作った病気のおばあさんから手紙がくるのだ。
「あの料理をどうしても作ってみたくなった。そして、いつもお世話になっているヘルパーさんや助けてくれる人に食べさせてあげたかった。みんながおいしい、おいしいとほめてくれた。私はいつもありがとうとお礼を言うばかりの立場だったけれど、ありがとうと人に喜んでもらえた幸せが本当に嬉しかった」
その後でカツ代は書いている。
「この人はずーっと長いこと主婦だったんだ、料理を作っておいしいね、ごちそうさまっていう言葉を聞いてた人なんだと、胸のあたりがポワっとなりました」

私は今、あなたの笑顔とレシピを思い出しながら、同じことを思って胸がポワっとなっています。
たくさんのおいしいレシピをごちそうさまでした。


・・・最近、死について考えることが増えてきた。