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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

どれくらい

泡沫

バナナスタンド好きな後輩ふみは、臆病なくせして、平気なフリで塀の上を歩いて行く埃まみれの野良猫みたいな子だ。
この例えはわかってもらえるだろうか。
うまく垣根の間をすり抜けていくようにも見えるけど、それなりに苦労もあるらしく毛並みは少し荒れている。猫の集会ではつかず離れずの場所に座って興味深く周りを見渡しているタイプ。冷蔵庫のない家で、普段はカリカリを食べて暮らしているけど、美味しいものを食べさせてくれる店の裏口はよく知っている。付き合いはいい方で、たいていニコニコ笑って美味しいお店に連れて行ってくれたり、みんなの後をついてきたり。でも時々空っぽみたいな顔をする。
一言で簡単に言うなら「いい子」なんだ。あの子はとても。

高校生の頃は毎日部室で、先輩たちが粗大ごみから拾ってきたソファーに座ってだらだらとお喋りをした。
多感な年頃には腹のたつことも多かったし、腹がたとうがたたなかろうが「ムカつく」という言葉は誰もがしょっちゅう口に出していた。
ふみはその度に、面白そうに目をキョロキョロさせて「どれくらい怒ってますか?おでこに十字路の絵が出るくらいですか?」「パン屋さんの帽子が頭に浮かぶくらいですか?」と不思議な尋ね方をしてきた。
これが十字路とパン屋さんの帽子 ↓
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その聞き方が面白くて、腹がたっていたのも忘れて「頭の上に温泉マークがでてるくらいだよ」「超サイヤ人になれるくらいだよ」と答えてげらげら笑った。

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本当に誰かが怒っているときは「困りましたねえ」と眉毛を下げたし、ふみ自身が怒っている時でも、眉毛が下がって笑っているみたいな顔で「パン屋さんの帽子3つじゃ済まないくらいですよ!」「池上遼一の漫画のヤクザみたいにああん?って言いたいですよ!」なんて言うから、やっぱりげらげら笑ってしまう。

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さて、昨日の雪が「どれくらい」かと言うと、それは「予想以上」で、こどもの国駅のホームの屋根が雪の重みで落ちるくらい。東急東横線が追突事故を起こすくらい。近所に乗り捨てられた車も10台をゆうに越すくらい。耳鼻科に行こうとするも、バス停まで行くのに雪山登山でもしたかのように息を切らすくらい。そうして辿り着いたバス停には、半分以上のバスが運休になっている旨のお知らせが貼ってあって「あ、そうか!雪が降ったらバスも動かなくなるのか」と驚いた。当たり前のことなのにすっかり失念していた。

ふみ、あのね。私がどれくらい驚いたかって言うと、サザエさんの漫画みたいな顔になったくらいよ。

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解けた雪と積もった雪でぐしょぐしょの水たまりの中にスニーカーをびしゃっと突っ込んで「ぎゃあ!」となりながら思ったことはそれ。
前後輪ともチェーンを巻いてジャリジャリ走るバスに揺られて、ふふふと笑った。
ふみはきっと、あーあーあー、と眉毛を下げて困った顔してるんだろう、今頃。