90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

走れウサギ

走れウサギ (上) (白水Uブックス (64))

走れウサギ (上) (白水Uブックス (64))

読んだこともない、この本が印象に残っているのは、大学受験の時に受講していた通信講座Z会のせいだ。毎月送られてくる現代国語のテキストの表紙には様々な文学作品の中から少しばかりの文章を抜き出したものが書かれていた。
ある月はアレン・ギンズバーグの詩だったし、ある月はミシェル・シュネーデルの書いたグレン・グールドに関する文章やアラン・シリトーの「長距離走者の孤独」だった。そして、ある月は「走れ、ウサギ」だった。

現代国語の一番良いところはどこか、というと、こうして自分の知らない様々な文章に出会えたことだったと思う。しかも、思わせぶりな斜体でテキストに書かれた文章は、一冊の本として読むよりもずっと意味ありげに、魅力的に見えた。若かりし自分が求めていた何かの答えがそこに隠れているんじゃないか、とさえ思った。

受験が終わったら読もう。
そう誓ったが、受験が終わって20年近く。まだ読んでいない。

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ところで、「追われる夢」を見たことのある人はかなり多いと思う。
夢占いによると、あの夢はストレス、納期・宿題・義務から逃げたい気持ち、逃げずに立ち向かえというメッセージ、そして「追われたい願望」を表すらしい。
わざわざ言われなくとも、それ以外の何なんだという感じではあるが。

ストレスはそんなにないはず。追われたい願望はないとは言えないわね。そして何より夢じゃない。寝てない。起きている。

起きていて、オリンピックを見ながら私は怯えているのだ。スピードスケート、バイアスロンクロスカントリー、滑降、リュージュ。なんというスピード、なんという力強さ、なんという迫力で奴らはやってくるのだ!と。
そして「あの人たちに追われたらどうすればいいの?」と余計なことを考え始め、ダメ、逃げられない!と震える。

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あの人たちに追われる場面を想像する時、己の姿はいつも雪道をジグザグに走る茶色いウサギの形をしている。滑降のスピードに震え、銃を背中に背負い、雪道を駆けてくるバイアスロン選手の迫力に震え、スピードスケート選手に追い詰められる場面を想像して目を閉じる。

Wikipediaで「走れウサギ」のあらすじを読んだ所、ウサギは不安の象徴のような存在で、現実社会の中で、手に入らない何かを追い求めたり、目に見えない何かに追われたり、自分や誰かを追い詰めたりしているみたいだ。
読んでもいないのに、まるで読んだかのように生々しく痛々しくその本の雰囲気を感じるのは、頭の中で何度でも、私がウサギになってオリンピック選手に追われているから。

そろそろ、この本を読んでみようか。