90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

花の咲く頃

高速道路の脇にたくさん植えられている夾竹桃は強い花で、原爆のあと75年は草木も生えないと言われた広島で一番先に花をつけたのだそうだ。
想像を絶するほどの恐ろしいことが起きて、たくさんの人が亡くなって、それでも季節がめぐり、花が咲いてくれた時、どんなにか嬉しかったことだろう、と思う。

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あの震災の後、すっかり何もかもが変わってしまったような気持ちになっていたとき、会社帰りに街路樹のこぶしの花を見て、涙が出るほど嬉しかった。
あんなことがあったのに、たくさんの人が亡くなったのに、原発事故も起きたのに、もう春もこないと思っていたのに、もう咲いてくれないと思っていたのに、それでもまるで約束を守るかのように咲いてくれるのか、と思った。あの年は、桜も特別に見えた。

今日は盆栽教室でハウチワカエデを植えた。

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先生が言う。
「盆栽は外で季節の移り変わりを感じさせながら育ててくださいね。秋口に急激に寒くなることによって葉が色づくのです。そして寒さに耐えるために葉を全て落とします。それは自分の持ち物を最小限にして、自分の一番大切な部分を守る、植物の知恵です。」
先月の旭山桜の時はこう言っていた。
「桜は花が散るとすぐに翌年のための花芽を作って、それから仮死状態になります。冬の寒さで目覚め、春に花を咲かせるのです。このように早めに花芽を作っておくのは、命を繋いで増やしていくための準備なのです」
そして話のあとで、あたかも「映画って本当にいいものですね」という水野晴郎のように「自然や植物というのは本当によくできていますね」と言う。

本当に、よくできている。
異常気象や、天災や、地震津波原発事故や大雪や台風や、いろんなことの中で、どうすれば自分を守れるか、どうすれば自分の子孫をたくさん残していけるのか、ただそれだけを必死に考えて準備をして、生き抜いて、花を咲かせてくれる。

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あれから3年。
またこの季節が来て、ほころび始めた沈丁花に、風に舞い散る梅の花に、まだ堅いまま眠っている桜の花芽に、咲いてくれてありがとう、生きてくれてありがとう、と思う。
きっとこの先、春が来るたびにずっと。