90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

何も言っていない

お偉い方々の長々しいスピーチがあちこちで聞かれる季節。
私が学生の頃はもう、壇上に上る人上る人、皆口を揃えて「ベルリンの壁が崩壊し」「ソビエト連邦が崩壊し」「激動の時代を迎え」「激動の20世紀も終わりに近づき」「世間を震撼させたオウム真理教事件」と繰り返した。

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「ああいうのって結局何も言ってねえよな」
「言ってない、言ってない!そこが重要なんじゃない?それなりに重々しく聞こえるが何の責任もない、っていう。」
「なにせ何も言ってねえもんな」
「ねえ、人はさあ、何も言わずにどれだけ喋れるものだと思う?」
大学時代、サークルの友人や先輩たちと、そんな話をして「金融ビッグバン」「冬来たりなば春遠からじと申します」「未来を担う若者」「3つの袋」「近くて遠い国韓国」なんて言葉をつなげてはげらげら笑った。

世の中には今や、いろんな条件を入力すると、それに合う文字を組み合わせた戒名を作成してくれるソフトがあるって言うけど、それと同じように、条件を入力すると「何も言わないスピーチ文」を作成してくれるソフトっていうのがあってもいいんじゃないか。それなりに需要があるんじゃないか。

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・・・と、うんざりしながら思っていたのは、選挙のウグイス嬢をやっていた時。ウグイス嬢の仕事は無論、車の走行中のアナウンスだけれども、候補者が街頭演説をする時には、その間中、隣に立って笑顔とビラを撒き、手を振ることも仕事のうちだ。
革新系の政治家は言うべきことがあるせいか、演説が上手い人が多い。保守系の大物になると、話の内容は「何も言っていない」状態でも、抑揚の付け方や見せ方が上手くて、勢いを感じさせる。タチが悪いのが地盤引き継ぎのためだけに出てきたポッと出の保守系新人で、どうにもこうにも演説が下手クソで、それこそ「何も言っていない」

地元の地主の息子さんが市議会議員に立候補した時が、正にその状態で、当然の事ながら落選した。その後、街頭や駅にたって地道に候補者活動を続ける彼の姿を何度も見た。そして「ああ、相変わらず下手クソだな」と思いながら通り過ぎた。努力の影は見えるのだけれど「何も言っていない、何も伝わってこない」

うまい、と言われる1分間スピーチ―10の「伝える」技術で身につける

うまい、と言われる1分間スピーチ―10の「伝える」技術で身につける

今日から始まった、第86回選抜高校野球。ウキウキしたり、ちょっと涙ぐんだりしながら開会式を見た。
大会会長である、毎日新聞社社長の挨拶はまあ、割と良かった。場慣れアピールなのか、この人は顔を振りながら喋る。そのうち政界にでも打って出るつもりなのかしら。

センバツ:「全力尽くす姿が感動を」大会会長あいさつ- 毎日新聞

しかし、この後の文部科学大臣。久しぶりに「うんざりする演説」を味わったぜ。
話の内容が毎日新聞社社長と丸かぶりなのは仕方ない。「何も言わない」挨拶というのは使えるトピックスが限られてくる。
問題は、話し方、見せ方、言葉の選び方、トピックスの掘り下げ方にセンスと品がないこと。政治に興味のない私でさえ「これが大臣じゃ、この国ヤバいのでは・・・?」と思わずにはいられなかった。
「何も言っていない」上に「恥ずかしい」って、おお、もう・・・。
この人、こんなスピーチ能力で、どうやって文部科学大臣の地位に上り詰めたの?早稲田大学の弁論クラブに所属していたって本当なの?

かつて「何も言わない」スピーチ作成ソフトを作ればいい、と思っていたけれど、それだけじゃダメなんだな。
あれは、「何も言わない」スピーチ内容を、如何に「何か大切な事を言っているかのように、重厚に意味ありげに見せるか」というテクニックの方がずっと重要だったのだな。

・・・と深く納得しつつ、あまりの恥ずかしさに、私は洗濯物を干しにベランダへと逃げ出したのでありました。