90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

人はなぜ

3月31日。
今日でいいともが終わった。年度も終わった。
明日から新年度。税金が上がる。そして保険証が更新となる。

そう、このバタバタの年度末に、どういうワケか保険証の更新があり、4月1日から有効の新保険証が送られてきて、旧保険証は返却しなければならない。
それについて以前より散々通達があり、今朝の朝礼でも「旧保険証は早急にパンチで穴をあけて無効化してから係長に提出して下さい。締め切りは11日です」と言われた。

そうまで言われたら、せっかちな私はすぐにでも穴を開けて提出したくなるんですよ。気がかりがずっとあるのが嫌だから、すぐにでも提出してスッキリしたくなるんですよ。そういうタチなのね。

ただし問題は、今、穴を開けてしまえば、今日は病院にかかることができない、ということ。
別に明日でいいのだ、保険証の提出なんか。なのに、急かされたら気になって仕方がないから「今日は病気になりません!事故にも遭いません!」と宣言をして穴をあけ、早々に係長に提出した。
それにつられて、同じくせっかちの同僚タカハシさんも保険証を提出した。

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「人はなぜ」と書くと、どんなバカバカしいことだって何か大仰に聞こえるものだけれど、あえて言う。
人はなぜ、「トイレに行けない」と思うとトイレに行きたくなり、「ブラックサンダーが大人気で売り切れらしい」と言われるとブラックサンダーが食べたくなり、「医者に行けない」と思うと医者に行きたくなるのでしょうか。

午後になり、タカハシさんが「お腹が痛い」と言い出した。二人で顔を見合わせて確認した。「でも、私達、今日はお医者さんにはいけないからね」
昼ごはんを食べたら、なんだか歯が痛い。磨いてみたら更に痛い。結構痛い。だがしかし。

ともかく、こっちは、歯が痛いのだよ。
原子バクダンで百万人一瞬にたたきつぶしたって、たったひとりの歯の痛みがとまらなきゃ、なにが文明だい、バカヤロー。
かの三文文士は、歯痛によって、ついに、クビをくくって死せり。決死の血相、ものすごし。闘志十分なりき。偉大。
ほめて、くれねえだろうな。誰も。
歯が痛い、などということは、目下、歯が痛い人間以外は誰も同感してくれないのである
           坂口安吾「不良少年とキリスト」

歯が痛くなるとこれを読むことにしている。
歯が痛くない時に読むと「こんなこと書いて飯くってるんだもんな、このヤロウ、バカじゃないか」と嫉妬しながら笑うけれど、歯が痛い時に読むと「天才!歯痛を書かせたらこの人の右にでるものはいないわ」と敬服する。

敬服しつつも、今日は医者には行けない日。
明日の歯医者を予約して、ロキソニンを飲んで「何が文明だい」と呟いて、明日を待つ。
ああ、全くもって、人はなぜ。