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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

渚のバルコニー

渚のバルコニーで昔、母と一緒に掃除夫を眺めていた。
あれは沖縄。
冬とは言え、沖縄だけあって気温も高く、よく晴れた気持ちのいい午前中、バルコニーの下を3人の男性がだらだらと通りすぎて行った。
先頭の男性はやるきなさげに竹箒をずるずると引きずって、申し訳程度に枯れ葉をかき集めながら前を行く。
2番目の男性は大きなちりとりをぶらぶらさせて、のんびり後をついていく。
3番目の男性は特大のゴミ袋をばさばさ言わせて、鼻歌まじりに歩いて行く。

「ああいうのを見てるとさあ、すっごく南国気分になるわよねえ」
「あの作業、3人も必要ないもんね」
「でもさ、人間、あれくらいがいいのよ。あんな風にのんびり生きたいわよね」
「まあ、豊かな生活よねえ」
「すっごく贅沢よ」

渚のバルコニーで頬杖ついて、母娘はだらだらと豊かさについて語り合った。

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千鳥ヶ淵の桜ももう終わりかけ。今日は、大学の入学式らしいお嬢さんたちをたくさん見かけた。
あちこちにフレッシュマンが入ったり、新しい企画が始動したりする春。
職場でも、「営業の負担を少しでも減らしてもっともっと契約をとろう!」と息巻くお偉方が、若干トンチンカンな方向に進むプロジェクトを始めたので、今まで営業さんから直で回ってきていた仕事の間に、業務内容を理解していない「後方支援部隊」が挟まることになった。

「ねえ、これって意味ある?すっごい無駄じゃない?」
「まあ、これだけ人件費かけられるってことはうちの会社もまだ安心ってことだろうけど」
なんて、同僚と話をしていたけれど、ぎくしゃくと企画が動き出してからは、各方面から困惑の声が聞こえ始めている。
今朝も大阪の営業支援のおじさんから電話が来て「これ、なんですのん?どういうこっちゃ」とぼやかれた。
・・・ですよねえ。今までメール1本で済んでいたあれこれが、間に人が挟まりすぎて、すごい時間のかかる一大プロジェクトみたいになってますもんねえ。

失笑していた夕方、ハっと気づいた。
あらやだ、これって、沖縄のおじさんのお掃除方式だわ。
あの時、「あんな風に仕事してさ、でも本人はすっごい頑張って働いてるんだろうね、あれ。で、夕方「ああ、疲れた」って家に帰ってご飯食べてナイター見てさ。人間らしい豊かな生活よ。ああいうのが一番幸せよ」と、母娘二人で憧れた沖縄のおじさんのお掃除式。
今、私は長い時を経て、あの仕事を手に入れることができたのね。
そう思えば、なんたる幸福。なんたる贅沢。
「効率が悪い!」とか「無駄じゃん!」なんてカリカリせず、今はこの贅沢を存分に味わうことにしよう。