とろみちゃんとマロニーちゃん
むかしむかしあるところに、あんかけの苦手なおひめさま(自称)がおりました。
おひめさまが子供の頃、読んだ本にはこんな囃し言葉が書かれていました。
「勝ったら官軍、負けたらあんかけ!」
どうやらその子ども達にはあんかけはすこぶる不評なようで、「負けたらあのぶよぶよした食いもん食べなきゃいけないんだぜ」という意味のようでした。
「どうして、そんなにあんかけは悪者なのかしら」とおひめさまは思いました。おひめさまはあんかけを食べることは大好きでしたから。
ただ、自分で作ることはできなかったのです。
待てど暮らせど王子様が来なかったので、おひめさまは毎日ささやかなご飯を作って食べていました。しかし、その食卓にあんかけがのぼることはほとんどありませんでした。麻婆豆腐の素についてくる味付き片栗粉さえ敬遠してしまう程でした。
ごくごくたまに、どうしても中華丼が食べたくなったときにだけ、おひめさまはありったけの勇気をふり絞って片栗粉を小さなお椀にいれるのでした。けれどできあがるのは、水っぽい中華丼や、ぶよぶよした中華丼ばかり。
おひめさまはいつも、中華鍋を覗き込んでは「これじゃあ、子供たちが『負けたらあんかけ』って言うのも仕方ないわね」と悲しげなため息をついていたのでした。
そんなある日、生協の宅配が大好きなお妃様が、おひめさまに言いました。
「とろみちゃん使いなさいよ。あれ、いいわよ?」
でも、おひめさまは躊躇っていました。なぜならお妃様は今まで何度も余計なものに飛びついては失敗を繰り返していましたからね。
それに、人見知りのおひめさまには、とろみちゃん、なんて見ず知らずの女の子をうちに入れる勇気がなかったのです。
けれど、お料理上手な北の国のおひめさままで言うではないですか。
「え?あんかけ苦手なの?とろみちゃん使ってみて?あの子、デキる子だよ?」
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心を決めたおひめさまは早速とろみちゃんを家に迎え入れました。そうしてまずは中華丼を作りました。すこし固めでしたが、おひめさまにはその時はっきりわかりました。
「この子とは仲良くなれるわ」
その次には、きのこのあんかけを作りました。おひめさまが自分でご飯を作るようになってから初めての献立でした。とろりとしたあんかけソースを掬いながら、おひめさまは恍惚として呟きました。
「これが私の作品だなんて!あんかけが作れない昨日の私にグッバイフォーエバー!」
さて、寒さ厳しき折、おひめさまは西の国のおひめさまと一緒にしゃぶしゃぶを食べに行きました。「肉だねー!」とトキめきながらも、二人のおひめさまはついついマロニーちゃんに心を奪われてしまいます。
「追加どうする?」「私はマロニーちゃん」
そして肉よりもマロニーちゃんでお腹が膨れはじめた頃、後方から殿方の声がしたのです。
「うわあ、肉だあ!」「おれ、マロニーちゃん!マロニーちゃんがいい!」
二人のおひめさまは顔を見合わせ、微笑みました。
「マロニーちゃんを可愛がることのできるあの方、きっと素晴らしい王子様に違いないわね」
「絶対に悪い人なんかじゃないわね」
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とろみちゃんとマロニーちゃんは、いつだってみんなを幸せな気持ちにしてくれる、とても素敵なお友達です。
みなさんも今日おうちに帰ったら、台所に大切なお友達がいるかどうか、探してみてくださいね。
そしてまだ、とろみちゃんやマロニーちゃんとお友達になっていない子がいたら、是非是非、仲良くなってくださいね。
おしまい。
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