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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

ゆず湯が目にしみる

泡沫

昨日は朔旦冬至と言って新月冬至が重なる日で、とても珍しくおめでたい日だと言うので、それならゆず湯はもちろんかぼちゃの煮つけも食べないとね、と、久々に駅前のスーパーに行った。

もう10年程前からだろうか。駅前のスーパーのレジで、オオルイさん、というマトリョーシカみたいに可愛らしい女の子が働いている。どうして彼女のことを気にかけているかと言えば、ひとえにあの子が本当に感じが良くて明るい笑顔で、よく気のつく素敵なお嬢さんだからだ。
当時、私は仕事に明け暮れて疲れ果てていて、夜遅くに、品数も少ない上にたくさんの人の溜息を吸い込んで空気が重く沈殿しているような駅前のスーパーで買い物をして、自らもまたそこに溜息を残していくような毎日だった。
そんな空気の中で、あの子だけが眩しいくらいに新鮮な笑顔で、夜更けを感じさせない明るい親切さで見送ってくれた。

自分自身、接客業に疲れていて、だんだん人に親切にできなくなったり、人を疑うようになってきて、そんな自分に嫌気がさして、という悪循環だったので、同じ接客業なのに、いつもあんなに明るい対応をしてくれるオオルイさんを尊敬もしたし、オオルイさんみたいな人なら良かった、と少し泣いたり、憧れたりした。

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よく一緒に星を見に行く高校時代からの男友達がいる。
彼に恋愛感情を持ったことも何かがあったこともないけれど、これだけ一緒にいるから結局この人に落ち着くのかしら、と思ったことはあった。
だけど、どうしても「ああ、ダメだ」と思ってしまったのは、彼が店員さんや駅員さんに対して「あのさあ!」と言うことだった。俗にいう「タメ口」「上から目線」というやつだ。初めてそれを聞いた時、あまりにびっくりして「え?すみません、とか言わないの?」と聞いたら、彼は言った。
「は?こっちは客だろ?」
それで、私はどうしてもこの人とは表面上仲良く出来ても、心底仲良くすることはできないな、と思ってしまった。

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さて、昨日まで全く知らなかったことだけれど、冬至の日に柚子湯に浸かるのは、風邪をひかないためだけだと思っていたら、どうやら昔の人たちはずいぶんと洒落ていて、「冬至」を「湯治」とかけた上に「柚子」を「融通」とかけ、「冬至の日にお風呂に入れば身体息災で融通が効く」という意味をつけたのだそうだ。
そうだったのか、融通、か。融通が効くって大事なことだよなあ。
お金の融通はもちろん、心の融通も、健康で体の融通が効くことも。

私はなかなか融通の効かない性質で、接客業をすればすぐにいっぱいいっぱいになって、人間嫌いになりそうになる。「こっちは客だろ」なんて言われればカチンときて、笑えなくなってしまう。
けれど、オオルイさんはきっと融通の効く人なんだろう。嫌なこともさらっと流して上手く切り替えて、そしてまた新しい気持ちで他人に笑顔を見せてくれる人なんだろう。


昨日、柚子とかぼちゃの煮つけを手に駅前のスーパーのレジに並んだら、前に並んでいたのはずいぶん腰の曲がったおばあさんで、小銭を出す手も覚束なかった。
その人の荷物を笑って運んであげるレジの女性は、誰かと思ったらオオルイさんだった。
最近、ここにはあまり来ていなかったから、そして彼女も年齢のせいか、少しだけ目つきが厳しくなっていたから気付かなかった。
でも、相変わらずオオルイさんはここにいてくれて、そして親切な店員さんでいてくれているんだ、と思ったらとても嬉しかった。

接客業を離れた今でもやっぱりオオルイさんみたいな人になりたかったな、と思う。オオルイさんみたいな親切な人には、いいことがたくさんあればいいと思う。

お風呂の中で彼女のことを考えて、自分のことを顧みて、ちょっと切なくなってゆず湯の香りが目に染みたりもする、朔旦冬至の夜だったのでした。

煙が目にしみる

煙が目にしみる

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