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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

普通の会社

以前に勤めていた会社は小さなワンマン経営の会社で、求人雑誌に有り体の表現をするなら「アットホームな職場」だった。社員数も少ないので大抵の人の名前は聞いたことがあったし、アットホームなだけあって「ご家庭か!」と言うようなおかしな事も多かった。
おじいさん社長が築地通いに夢中になった折には社長のために早朝出勤して会社の鍵を開ける当番制が導入されたし、失恋のたびにひと月ほど失踪するゲイ社員がいたり、長年会社で飼ってたわんこが死んで社葬になったり、社長用のカップラーメンを作るタイミングが悪かったと言っては役員が激怒されたり。
そんな話を聞くたびに「なんておかしな職場であろうか」と思っていたが、まあしょうがないかと諦めてもいた。
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築地通いしていた頃のおじいさん社長がしょっちゅう買ってきていた卵焼き。
ついに先日焼き立てを食べた!

今の会社に転職して早6年。
会社規模は以前と比較にならないほど大きく、その分鷹揚とした雰囲気がある。
「普通の会社にお勤め!」と浮かれていたが、最近「普通とは何か」としばし考えてしまう。
会社が大きい分、とにもかくにもいろんな人がいるのだ。

ベルマーク収集箱をゴミ箱に捨てるような心根の暗い人もいる。社員食堂の小鉢を窃盗してクビになった派遣の人もいる。トイレの洗浄ボタンを足で蹴り飛ばす者もいる。不倫、病的な潔癖症、刺青、エレベーター内にこっそりガムを貼り付けて回る…。
どこの誰がそんなことをしているのかはわからない。でも「同じ会社、同じフロアにこんなにも心根の暗い人がいる」と知った時には割とショックだった。
「普通の会社にお勤めのしっかりした方」「普通のOL」などという肩書の下にはこんなにも屈折があるものなのか。
うっかり東電OL殺人事件なんかを思い出してしまいそうになるではないか。

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

東電OL殺人事件 (新潮文庫)

毎月の処分通達などにも「こんな人が同じ会社にいるのか」と衝撃を受ける。
やれ「免許証が減点続きで警察に来るように通達が出ていたが、長きに渡って放置したため免停、にも関わらず社用車を運転して更に違反を重ねて警察に捕まる」だとか、「泥酔して社員証をかけたまま電車の床に座り込んで大声で騒いだ」とか「会議費用として強制的にお金を徴収し飲み会を行った」だとか。

もう一度書くけど、とにもかくにもいろんな人がいるものだ。
それくらい理解していたつもりだけれど、同じ会社で一応同じ目的を持って働く人の中にこんなにもいろんな人がいるとは思っていなかった。不覚。
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こちら、いろんな貝@築地

そんな風にいろんな人のいる普通の会社では労災認定されるケガもいろいろある。
安全衛生委員会なる委員会の会議議事録が全社ポータルにアップされるのだが、それによると
「通勤途中に急いでいたため一時停止中の車と車の間をすりぬけて横断しようとし、バイクと接触。複雑骨折」
…自己責任ではないか、と思ってしまうが労災認定だ。安全衛生委員会は冷徹に「朝は余裕をもって通勤して頂きたい」とコメントしている。当たり前だ。
また「通勤途中に正面から来た人を避けようと道路の端に寄ったところ、店舗のひさしに頭をぶつけ救急搬送」というのもある。申し訳ないが想像したらなんのコントだ、と笑ってしまう。が、安全衛生委員会はここでも冷徹だ。「急いでいたことが原因。余裕をもった行動を」

私と同僚の笑いが止まらなくなったのは12月の労災事故。
複合機(97kg)を2人で持ち上げた際に腰をひねり、急性腰椎症」
(97kg)という注意書きの時点で危険なものを感じていたが、安全衛生委員会の「元々腰が弱い所に中腰から持ち上げたことによる」というコメントの冷徹さに耐えられなくなり、涙を流して笑った。
…ひどい。この書かれ方はひどい…。
いったいこの委員会はどんな風に開催されるのだろう。誰かが淡々と事案を読み上げ、冷静に話し合うのだろうか。誰も私たちのように笑い転げたりしないのだろうか。

あまりの面白さに、ヒマにまかせて過去の分の議事録も読み漁ったが、そうしてわかったことは「この議事録は去年の7月から突然、面白味が格段に増している」という事だ。特に書記は変更されていない。では書記にいったい何があって、突如このような躍動感あふれる議事録を作成できるまでになったのであろうか。

…いかに想像しようとしても、もはや私の想像力では及ばないような気がする。
だって、普通の会社には普通の仮面をかぶった、本当にいろんな人たちがいるから。