90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

定義

紅いということはできない、色ではなくりんごなのだ。丸いということはできない、形ではなくりんごなのだ。酸っぱいということはできない、味ではなくりんごなのだ。高いということはできない、値段ではないりんごなのだ。きれいということはできない、美ではないりんごだ。分類することはできない、植物ではなく、りんごなのだから。
花咲くりんごだ。実るりんご、枝で風に揺れるりんごだ。雨に打たれるりんご、ついばまれるりんご、もぎとられるりんごだ。地に落ちるりんごだ。腐るりんごだ。種子のりんご、芽を吹くりんご。りんごと呼ぶ必要もないりんごだ。りんごでなくてもいいりんご、りんごであってもいいりんご、りんごであろうかなかろうが、ただひとつのりんごはすべてのりんご。
           谷川俊太郎詩集「定義」より「りんごへの固執」

クリームパンを食べ続けた私は、今や「クリームパンとは何か」という、そもそもの定義について哲学的に思いを馳せる程遠くまで来てしまった。
クリームとは何か。カスタードクリームのみか。生クリームは認められないのか、牛乳クリームはどうか、かぼちゃクリームは。ミルクフランスはなぜクリームパンではないのか、山型でなければクリームパンではないのか、パンにクリームが練り込んであるものはクリームパンと呼んでいいのか、パン屋がクリームパンと名付ければそれはクリームパンなのか。

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LE PAIN de Joël Robuchon ガレット・ブレッサンヌ 262円
パン:ケーキみたいなブリオッシュ生地でお砂糖が染み込んでる
クリーム:これはクリームチーズとどう違うんだろう。
☆☆☆☆

「クリームパンって何ですか!!!」
大声でそう聞きたくなるのはこういう気取ったお店に来た時だ。「クリームパン」とは書かれていない時だ。
これはクリームパンではない!と毅然とした態度で撤退すべきなのか、それとも、せっかくここまで来たのだから「クリームを重ねて焼き上げた」と書いてあればそれはクリームパンとして認めるべきなのか。
答えの見つからないまま購入したクリームパン的なもの「ガレットブレッサンヌ」なるパンは、ブリオッシュ生地の真ん中に濃厚なクリームチーズのようなクリームが入っていた。

今の私に言えることはただ一つ、これがカスタードクリームパンではない、という事だけ。

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