90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

寒がりのおばあさん

寒い寒い寒い。
朝は陽射しが暖かくて、カーディガンだけで家を出たのに、夕方の風が冷たくて震えながら帰ってきた。

今年はいつまでたっても暖かくならないような気がする。
もちろん冬に比べれば温かいけれど、5月はもっと「初夏のような陽気」と呼ばれる季節ではなかったか。
朝晩が特に寒くて、いまだに暖房をつけてしまったり、電気あんかをつけて眠ったりする。こんなことならボアシーツをしまうのではなかった。まるで4月の始めの頃のよう。

f:id:mame90:20130507195151j:plain

毎回毎回思い出話ばかりで恐縮ですが、かつて家に「中国の昔話」という文庫本があって、その中に「寒がりのおばあさん」の話があった。
ある所に、夫に先立たれたお婆さんがいて、とても寒がりで夏でも囲炉裏の前で背中を丸めて寒い寒いと震えているのだ。息子たちが見かねて、布団をたくさんかけてあげたり、背中をさすってあげたりしてもおばあさんの震えは止まらない。
息子が大きくなってから、おばあさんは縁あって再婚し、それからは「寒い寒い」と言う事はなくなった、という話。

意味がわからなくて「なんで?新居がいい家だから?」と母に聞いたら、母は呆れたようにふふん、と笑って「アンタはまだ子供ねえ~。お婆さんはね、夫に死なれて孤独だったの。心が孤独だから寒かったの。それは子供にも埋められないほどの寂しさなのよ」と言った。
ほほう。なるほどねえ。なんか、深い!!

・・・と、中学生の私は感銘を受けたものであったが、今では少し不安になる。
もしかしたら、こんなに寒がっているのは私だけなんじゃないか、私が独り者だからこんなに寒いのかしら、と。

ちなみに、日本では「月にはうさぎが住んでいる」と言われるが、中国では「不老不死の薬を飲んで、夫を残して月に昇った女の人が、ひとりぼっちで寒がりながらさびしく住んでいる」と言われているらしい。
中国人にとって、ひとり=寒いことなのだな。
それはあながち間違いではないけれど。