名作の証
子供の頃、あまりテレビを見せてもらえなかった。だから時折家族で金曜ロードショーなどを見る時は、ものすごい集中力を発揮して見たものだ。それこそ昭和の人たちのようにテレビの前で正座し、前のめりになって息を詰めて、CMになれば猛ダッシュでトイレに駆け込んで。
それだけ集中して見ていた上に、姉弟揃って気に入ったものはヒマさえあれば何度も見倒す、しつこい気質だったので、映画の中の台詞やシーンもくっきりと覚えており、映画を見終わった瞬間からモノマネ大会が始まる。日常生活の中でも、そこここにモノマネが差し込まれる。
小さな頃は「お前んち、おっばけ屋敷ー!」という、トトロのカンタの真似が大好きだった弟たちは、中学生になって始まった英語の授業が嬉しかったらしく、教科書を前にしてムスカ大佐のように言った。「読める!読めるぞ!」
家族で出かける時に、ぐずぐずしている弟たちに、私はドーラおばさんのように言い放つ。「40秒で支度しな!」
飼っていた猫をとっ捕まえて叱ろうとした時、弟たちは揃って、バック・トゥ・ザ・フューチャーでプエルトリコ人に捕まったドクのように猫に向かって叫んだ。「逃げろ、マーティー!!」
こんなアホなことをするのは我が家くらいかと思っていたが、割とみんなやっているようで、友人たちとも時折ガンダムごっこやハムレットごっこをする。
昨夜は劇団四季の「鹿鳴館」を見てきた。
前述の通り、しつこい気質なので10回近くこの芝居を見ている。三島由紀夫の原作も何度も読んだ。いつかテレビで田村正和と黒木瞳が演ったのも見た。
何度見てもいい。美しい言葉、美しい舞台装置。皮肉で嫌味で知的で気の利いた言い回し、大げさでメロドラマな筋立て。三島由紀夫ってもの凄いな、と嘆息し、「そうなの、これが見たかったの!そして今すぐモノマネがしたい!」と身悶える。
「こんなもの!こうしてしまえばよろしいのよ!」と白い菊を踏みにじりたい。「上がってきて、あたくしをお切りなさいいいっ!」って扇子片手に啖呵切りたい。毅然とした態度で「よございますか?今夜あたくしは夜会に出ます!」って言いたい、言いたい、言いたい!鹿鳴館ごっこがしたい!
こんな風に思うのは、これが「いい芝居」だからだ。弟や友人たちと散々モノマネをし尽くした後に、いつも「あれ、やっぱりいい作品だよな」としみじみと確認し合う。
確かに、つまらない映画、つまらない芝居など、マネをしようとも思わない。記憶にも残らない。何度も見たいとも思わない。モノマネしたくなるのは名作の証。
客席で見ているこの瞬間に、こんなにもモノマネがしたくなるだなんて、やっぱり鹿鳴館て名作だわ・・・。
秋には友人とやはり劇団四季の「李香蘭」というミュージカルを見に行く約束をしている。これがまたマネしどころ満載の素晴らしい作品なのだ。
日程を相談する中で、友人は言った。「やっぱり、夜公演じゃなくて昼にしようよ。だって見終わったあと、散々モノマネ大会したいじゃん!」
そうだよね、そうだよね・・・絶対やっちゃうよね。だって、あれ名作だもの!
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