90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

他人事

自分を脳天気なまま保つには、才覚がいるのである。根性もいるのである。実は私は、そうではない自分を見つけてしまうのが怖くてならない。兄の言う所の「何も考えていない奴」という立場を貫きたい
                        山田詠美「無銭優雅」


我が家は家庭環境がガタガタで、曽祖母の代から度重なる離婚再婚のおかげで、祖父の数は人の倍、苗字の変更は四度、父は二人、弟の数は生き別れ含む三人、おかげさまで私の濃い顔はホンの少々混じったスペイン人の血によるものらしい。

13歳の時に生き別れになった弟が、2年前にあれこれ奔走して私を探し出してくれたのは、これも生き別れの実の父親が死にかけているので知らせたほうがいいと思って、という理由からであった。まだ生きているそうだ。
同じ環境で育ち、それなりに同じ物を見てきた弟は言う。「嫌だと思うし、強制はしないけど一応言っとくと、あの人、会いたがってるよ」
普通のご家庭で普通に育った今の父は理想を胸に、他人事として言う。「会わないと後悔するぞ!」
いやだよ、いやだよ。私、結構努力して今の他人事ポジション手に入れたんだもの。


昨日はもらいもののチケットがあったので、かつて生き別れた弟を誘って東京ドームで日ハム対ソフトバンク戦を見てきた。
弟はカープファン、私はライオンズファン。何の気兼ねも思い入れも愛憎もなく、他人事として楽しく気ままに試合観戦ができる。おまけに先発は大谷くんと新垣だ。
「大谷が見れるなんてラッキーだねえ」と、勝負の行方なんてどうでも良く語り合う。

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お互い時折携帯で、それぞれの贔屓チームの勝負の行方を確認しつつ、例え大谷くんがホームランを2本も打たれようとも「いやいや、大谷くんはルーキーなのに頑張ってるよね」、サードゴロからファーストに送ってアウトにすれば「いやあ、さすがプロはすごいね!いい送球!」、セカンドゴロを捌いただけで「プロは軽快だね!」とビール飲み飲み浮かれて話す。抑えの武田久が同点に追いつかれてしまった時も「あらあら、さすが武田久www」と笑って延長戦を見守る。

これが贔屓チームだったらそうはいかないのだ。ルーキーがホームラン2本打たれた時点で「あの子に先発はまだ早かったんじゃないか」、抑えが同点に追いつかれれば「いっつもコレだよ!他にピッチャーいないのかよ!!」、期待に胸躍らせながら聴く日ハムのチャンステーマだって、これがライオンズ戦だったら、恐ろしくてカタカタ震えている。延長10回裏、ファースト捕球エラーでサヨナラという幕切れも、贔屓チームの敗北だったら「ふざけるな!」と怒り心頭になるところだ。

もちろん、贔屓チームの勝利の方が心の底から嬉しくて楽しい。だけど何の思い入れもなく、他人事視線で穏やかに試合を見るのもいいものね。
他人事って気楽で無責任で好き勝手な事を言いながら、純粋にプレーだけを楽しむことができるものね。愛情や思い入れや面倒な関係があると、なかなかこうはいかないものね。

無銭優雅 (幻冬舎文庫)

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