90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

夢の飲み物

15歳の春、京都・奈良への修学旅行を間近に控えた教室で、大切な秘密のように語られていたのは、冷やしあめという飲み物について。
「京都には冷やしあめっていう飲み物があるんだって」
「あめなのに飲み物なの?」
「すごく美味しいらしい。べっこう飴の味がするんだって。」
「べっこう飴ってどんな味?」「何色の飲み物?何でできてるの?」
「オレ、京都に行ったら、絶対冷やしあめ飲むんだ」「どこで売ってるのかな」

今のようにインターネットなどない時代に、無知な子供の噂話の中で想像される冷やしあめは、まるで夢のような飲み物に思えた。

修学旅行班行動当日、確かものすごく暑い日に、どこだったかの街の民家の間の細い路地でおばさんがパラソルをさして冷やしあめを売っていた。
「あ!冷やしあめ!あったよ!」
喜び勇んで、友達と買い求めたのだけど、優しい甘さのその飲み物はとても不思議な味で、どうにもおいしいと思われなかった。
「・・・なーんだ・・・、あんなに憧れてたのに、あんまり美味しくないね」
そう言って、みんなで頷きあった。

先日、奈良に旅行に行った帰りに、時間が余ったので京都で東寺に立ち寄って、お茶屋さんで休憩した。あの記憶から冷やしあめは敬遠気味の私はお団子セット、友人は冷やしあめを注文して「飲んでもいいよ」と言ってくれる。それで一口もらって飲んでみたら、なんということでしょう、それはもうものすごく夢のように美味しいではないですか。
あれ?冷やしあめって美味しいじゃない!どうしてこんなに美味しいの?家でも飲むにはどうしたらいいの?麦芽糖水飴って富澤商店で売ってるの?
お茶屋さんの軒先で興奮して調べたが、なんとそのお茶屋さんで4倍濃縮の冷やしあめ原液が売られていた。もちろん買った。
牛乳で割っても美味しいらしい。間違いない。ソーダ割りにしたらジンジャーエールだって。ウォッカも入れたらモスコミュールになるだろうか。

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あの時、あんまり美味しくなかったのに、どうして今はこんなに美味しいんだろう。そんなことさえとても不思議で夢をみているような気持ちになる。
氷をカラカラ言わせて冷やしあめを飲みながら、「日出処の天子」を読みふけった日曜日。
ただの週末なのに、ものすごく夏休みっぽかった。

尚、既に通販で、この濃縮冷やしあめを6本追加オーダー済の私・・・。夢の飲み物か、はたまた魔性の飲み物か・・・。