90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

神様の乗り物

父方の代々のお墓は広島の宮島の向かいにある。それでいつか法事でお墓に行った帰りに家族で、今まさに出航しようとするフェリーに飛び乗って宮島に行った。夕方の宮島にだんだんと灯りが灯って行く様子は「千と千尋の神隠し」の冒頭のようでとても美しかったが、その美しい景色の中を父は鹿をぞろぞろ引き連れて微笑みながら歩いており、私たち家族に「何、あの鹿使いは」「ムツゴロウさんじゃね?」などと言われていた。

次の法事の時、食事の席で親戚のおじさんにそんな事を話していたら、おじさんが「戦争中は食料がなかったけえ、宮島の鹿もどんどんおらんようになってな、戦争が終わって、また奈良から連れてきよったんじゃ」と言う。え!奈良からわざわざ?私が驚くとおじさんは今度は呆れたように言った。
「そりゃあんた、鹿は神様の乗り物じゃけえ、当たり前じゃろうが。鹿っちゅーのはみーんな、奈良から連れて来よるんじゃ」
・・・そ!そうだったの?宮島の鹿は奈良の鹿なの?それ以外にも神社に鹿がいたら、それは奈良の子なの?そして何より鹿は神様の乗り物だったの!奈良は神様の乗り物養成所なの!?
・・・大体、鹿の足の細さを見るにつけ、乗り物には適さないと思うんだけどな。

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これは奈良の春日大社の入り口の鹿型手水舎。

7月に奈良に行った帰り、少し時間が余ったので京都の東寺に立ち寄ったのだけれど、正直もうお寺はお腹いっぱい、拝観料もこの3日間でどれだけ支払ったことか、という気持ちであったのに、突如「これは!」と急いで中に入ったのはひとえに、パンフレットに載っていた梵天様の写真のせい。梵天様がなんでだかおかしな鳥の上に座っていたせい。

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実物を前にひどく困惑し、これは一体どういうことか、と友人に尋ねるも、友人は「これはハンサだよ!梵天様の乗り物なんだ!おおすげえなあ」と興奮するばかり。
だからなんで?なんで梵天様は鳥に乗ってるの?それにこの鳥、四方を向いているじゃない。どうやって進むの?乗り物なんでしょ!
私の子供のような問いかけを、友人はまるで面倒くさがりのお父さんみたいに「そういうモンなの!」とぴしゃっとシャットアウトした。むむむ。

あれからいろいろ調べてみるも、なぜ梵天様が四方を向いた鳥に乗っているのかはわからない。そもそも、鹿やら鳥やらなぜ神様が動物に乗るのか、乗る必要があるのか、どこに行くつもりなのかもわからない。

どうも、ヒンドゥー教あたりから来た発想であるらしい事だけはわかった。
ヒンドゥー教の神様は鷲に乗ったり、牛に乗ったりやたらめったら動物に乗るらしい。象の姿のガネーシャに至っては乗り物はネズミとの事で説明にはこう書かれていた。
「このネズミは、ガネーシャが移動のために乗る動物なのです。「えっ?象がネズミに?」と思うかも知れませんが、大丈夫、潰れたりしませんよ。ガネーシャは、ネズミに乗れるほど秘技を持つ凄い神様なのです」

・・・そんな秘技を持つ前に歩いたらどうか。空を飛んだり瞬間移動したりする秘技を身につけたらどうなのか。
全く、なんだってそんなに動物に乗りたがるのかしらね、神様。