90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

僕らが旅に出る理由

かつて、仕事で電話受付を担当していた頃、日本全国様々な地域の方とお話をした。東北のおじいさんの方言は本当に理解できなくて、咄嗟に「外国人から電話が来た!!」と思ってしまった。
関西のおじさんとは「ええ席ください」「A席ですね?」「いや、ええ席」「???」というやり取りをして、お互い苦笑した。
けれど、そういう方言は、テレビの影響などでだいぶ慣れてきているし、元々「違うもの」だという覚悟もある。ところが、言い回しの違いになると、一瞬「アレ?」と頭が真っ白になったり、余計なことをぐるぐると考えてしまったりする。

例えば、九州の方は「お願いします」を「お願いしときます」という言い方をする。初めてこれを聞いた時、「これで予約を確保して大丈夫だろうか、この人は『とりあえず一旦お願いしておくだけ』というつもりで言っているんじゃないか」と不安になった。

また、関西のお兄さんに「やらしい話してもいいですか?」と切りだされ、一瞬「え?何?」と身構えたら、「ホンマやらしい話なんスけど、ええトコで見たいんですわ」と笑って言われて、ほっと安堵の溜息をついた事もある。今でこそ、関西の人の使う「やらしい」という言葉は、関東で言う「卑猥」とは違うという事を知っていて、自然に受け止められるけれど、あの時は息が止まる程驚いた。

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今回、奈良に行って、奈良交通のバスには本当にお世話になって何度も乗ったが、ふと耳に入ってきた車内アナウンスに、アレ?と思った。よくある、女性の声で流れるアナウンス。あれが言うのだ。「急停車することがありますので、つり革やにぎり棒におつかまり下さい」
ふーん、「にぎり棒」かあ。私がいつも乗る東急バスや電車のアナウンスは「つり革や手すりにおつかまり下さい」だ。
なんだろう、「すり鉢」を「あたり鉢」と言うように「する」という言葉を忌んで、「にぎり棒」と呼ぶのかしら。

やっぱりこうして、ちょっとした事が違うんだな、と思いながら車内を見渡すと、入り口の上あたりに大きな案内紙が貼られており「積み増しは回数券よりお得」と書いてあるのが目についた。
・・・積み増し?なんだろう、観光客が多いから「荷物の多い人は別料金を取りますよ」なんて意味かしらと考えながらバスを降り、近鉄奈良駅に入ったら、何かの機械にまたしても大きく「積み増しはこちら」と書かれた看板が貼られていた。よくよく見るとそれはバスや電車で使えるICカードのチャージ機だった。
それでやっと思い当たった。チャージのことを「積み増し」と呼ぶのか!わざわざラミネート加工した大きな看板を作ってチャージ機に貼ってある、という事は、こちらの人にとっては「チャージ」ではわかりづらく、「積み増し」の方が理解しやすいからなんだろう。なるほど。

奈良交通のホームページにもちゃんと「積み増し」という言葉が使われている。
ちなみにバスや電車で使えるICカードの奈良版は「CI-CA」(シーカ)。もちろん鹿の絵だ。シーカ!!

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調べて見たら、関西系のICカードは「チャージ(積み増し)」という案内が多いらしい。関東はほとんど「チャージ(入金)」だ。

「情報が発達して、画一化が進んでいる」なんて言われる昨今、関西弁は珍しいものでもないし、地方の名産品もどこでだって手に入る。法隆寺興福寺の仏像にも「教科書で見たのと同じだ!」と感心した。

だけど、こうしてほんの少しだけ違うものがある。その「少し」が面白くて、それを見つけたくて、あちこちへ出かけたくなるのかもしれない。

LIFE

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