90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

バタフライエフェクト

バタフライ効果
通常なら無視できると思われるような極めて小さな差が、やがては無視できない大きな差となる現象のことを指す。
「ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか」
「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」
「アマゾンを舞う1匹の蝶の羽ばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせる」

これを日本語で言うとどうなるか。
それは「風が吹くと桶屋が儲かる」
蝶など飛んでいる場合ではないのだ。

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学生時代、なぜか突然韓国に興味を持って、外務省後援の学生交流団体に所属していた。今のように韓流ブームが起こるずっと前だ。当時は韓国のイメージがあまりよろしくなくて、両親や祖父母には「某新興宗教に所属したのではないか」と疑われて猛反対された。
一応学術団体なので、日韓間の種々の問題について勉強し、夏休みに2週間程、向こうの学生と学術交流をする大会が開かれる。隔年でソウルと東京で開催されるが、私の時はソウル大会だった。

親の反対を押し切って、生まれて初めてやってきた異国の地、ソウル。
連日繰り広げられるグループ会議も最終日に近づき、話し合いも熱を帯びてきた頃、通訳の女性が困り果てた顔で誰彼に尋ねていた。
「風が吹いたら桶屋が儲かるのってなんででしたっけ」
どうやら誰かが凛々しく「その理屈は、風が吹けば桶屋が儲かると言うようなものだ!」と述べたらしい。そして通訳さんはそれを韓国語に翻訳することができずに途方に暮れていたのだ。

今のように、出先で簡単にインターネットにつなげる状況ではない。凛々しく口にした本人でさえ、なぜ桶屋が儲かるかまでは覚えていないようだ。それで日本人チーム全員で頭を寄せあって必死に思い出そうとした。
「ええと・・・まず風が吹いたら埃が舞って、目がつぶれる人が増えて・・・」「え?埃で目が?」「やかましい!そういう事が問題なのではない!」「三味線!三味線が出てきた!」
異国の地で、まさかこんな事で上へ下への大騒ぎになろうとは。
しかし、三人寄れば文殊の知恵というやつか、みんなであれこれ記憶を辿るうちに、ふともつれた糸がほどけた。

「風が吹いて埃が舞って、目が潰れた人が三味線弾きになろうとして、三味線の需要が増えたら、三味線を作るために猫がどんどん捕まって、猫がいなくなったせいで鼠が増えて、鼠が桶をかじって、桶屋が儲かる!」

謎が解けた喜びに顔を輝かせながら、各々が3回ほど呪文のように唱えた。

北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こる。風が吹くと桶屋が儲かる。
ソウルで「風が吹くと桶屋が儲かる」ことわざを必死に思い出したあの日から15年余りが過ぎた。
先日突然父が「風が吹くと桶屋が儲かるのって何でだっけ」と言い出すので、私はすぐさま答えた。

いい?お父さん。私は風が吹いたら桶屋が儲かる理由を説明できる娘だからね。万が一オレオレ詐欺のような電話がかかってきたら、暗号みたいに「風が吹いたら桶屋が儲かる理由は?」って聞いてみてね。
それで、お父さんの貯金が守られるかもしれない、そこで守られた貯金はいつか、飢えたお母さん猫にあげるミルクになるかもしれない、生まれた子猫は気持ちが優しく、ねずみを捕まえられないかもしれない。そうしてまた桶が囓られ桶屋が儲かるかもしれないバタフライエフェクト。