90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

自分の言葉

かの大江健三郎は、大学受験に失敗した事を母親に報告する際に井伏鱒二の小説「山椒魚」の台詞を引用して「なんたる失策!」と言ったところ「こんな時くらい自分の言葉で話せないのか!」と叱られたと言う。

そのエピソードに大笑いしてから、私と母の間では「なんたる失策!」という台詞が大流行した。
うちの家族はみんな引用好きで、何かにつけて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の台詞やジブリ映画の台詞、ドラゴンボールの台詞が使用される。が、弟が高校受験に失敗した際は一応自分の言葉で話していた。
「本当に落ちるとは思わなかった」と。
この言葉も家族の間でそれなりに流行した。

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春先に近所に出来たコーヒー屋さんに、昨日初めて行ってみた。コーヒーを淹れて頂く間にお店紹介のチラシをもらって読んでいたら、隅に、掛布、落合、古田、野茂、津田恒実中村紀洋のユニフォームの写真が並んでいた。
お!と思って「野球が好きなんですか?」と聞いてみたら、もちろん大好きとの事だった。
以下、店長さんの言葉を引用すると、このユニフォーム写真の選手たちにちなんだブレンドを用意しているそうで、例えば落合だったら三冠王だから「トリプルクラウンブレンド」、野茂なら「トルネードブレンド」、津田恒実はキレのあるキリマンジャロのストレートブレンドとの事。
すごく面白い!嬉しくなって、あれこれ教えてもらいながらコーヒー豆も買うことにした。ホームブレンド。その場で豆を好みの加減に焼いてから挽いてくれる。
「古田もしくは谷繁のイメージ。南米の豆を使っていて、キャッチャーが全体を見渡して統制をとるように、バランスのとれたブレンド」だって。

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お店を出てから「フフフ… いいとこ見つけちゃった。物語に出てくるお店みたい。ステキ!」と浮き浮きしながら自転車を漕いだ。
これはジブリ映画「耳をすませば」の中で、「地球屋」という素敵なお店を見つけたあとの雫が呟く台詞。浮かれすぎた雫は小躍りしながら道路に飛び出して車に轢かれそうになる。さすがにそこまでは引用しないように気を付けたけど。

夕食後、買ってきた豆でコーヒーを淹れたら、いつもと同じように淹れたのに香りも味も全然違う。さすが古田。
そして土曜日に手に入れた喜久家のラムボールをデザートにした。おいしいコーヒー、おいしいラムボール。
この喜びに、やっぱり引用してしまう。「なんたる贅沢!!」

興奮している時ほど、なかなか自分の言葉で話せないものね。
そう思うと、古舘伊知郎ってものすごいな!