90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

おとぎ話のリアリティ

この時期になると、周囲のお父さんお母さん達が頭を悩ませ、ため息をついて言う。
「クリスマスにサンタさんに何をお願いするの?って子供に聞いてるんだけど教えてくれない」「多分欲しがってるのはアレだと思うんだけど、クリスマスまでに変わっちゃったらどうしよう」「もう、サンタさんはいないんだよ、って言っちゃおうかな」「何歳から情報解禁だと思う?」

…夢を美しい夢のまま見せ続けるのも大変ねえ。
うちの母はそういう努力はしない人だった。おとぎ話にリアリティを与えて弟たちを納得させてきた。
「うちにはサンタさんは来ないわよ。あたしが断っておいたから」
固まる弟たちに母はたたみかけた。
「だってあなた達はおばあちゃんにプレゼント買ってもらえるでしょ?サンタさん、ものすごく忙しいだろうし、うちに来ないで、他所の、プレゼント買ってもらえない子の所に行った方がいいじゃない」
そっかあ、確かにそうだね、と弟たちは頷いた。私も頷いた。

ちなみに子供がみんな一度は口にする「赤ちゃんはどこから来たの?」という疑問には一言「ヤマトさんがクール宅急便で届けに来た」と答えていた。それは「コウノトリが」とか「キャベツ畑に妖精が」なんて話より、よっぽどリアリティがあって、納得できる気がした。

中島みゆきは「あどけない話」という曲の中で「おとぎ話を聞かせるならあり得ない事と付け足しておいてよ」と歌っているが、私はおとぎ話を聞かせるなら、あり得そうなリアリティを付け足して欲しいなと思う。
だから、去年のクリスマス頃に出回ったこのツイートがお気に入りだ。

今年は急遽、台風で大変な事になったフィリピンに重点を置かなければならなくなったから相当大変な事だろう。
大量の追加発注に追われてバタバタしている様子がありありと目に浮かぶようで、とてもサンタクロースが架空の人物だなんて思われない。
島耕作ばりの厳しい顔で受話器を肩に挟み、「こっちもギリギリの発注だってことはわかってるんですけど、なんとかね、この日までには納品してもらわないと、子ども達に迷惑がかかるんで」なんて言ったりしてるんだろう。
一日で全て配送し終わる為には「トラック野郎」の菅原文太並みの思い切りや破天荒さ、仲間の協力、効率のいいルート選択も必要になるだろう。誤配、遅配なんてミスは決して許されない厳しい仕事だ。大変、大変。


先日、新婚旅行で北欧に行った弟がお土産にトナカイの缶詰を買ってきた。

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トナカイねえ…としげしげと見つめながら、
「ねえ、ほら、昔、「絹の道」で絹糸を運んでる途中で倒れた馬を、馬肉として食べさせる店が町田あたりにあったって言うじゃない?あんな風にさ、もしかしたらこの缶詰もサンタさんの荷物を運んでる途中で弱ったトナカイなんじゃない?」
なんて言ってみたら、弟は目をキラリとさせて「そうだよ。やっぱり一日で世界中を回るのは激務だからさ、毎年必ず何頭かは倒れるんだよ。よく頑張った子だから、食べてやるのが一番の供養だね」としれっと答えた。こういう時、眉毛がピクっとするの、お父さんと一緒だね、あなた。

それで「やっぱ、そうかあ。あの赤鼻のルドルフなんかも今頃缶詰かしらねえ」「あれはプレミアがついてすごい値段だったから買えなかったよ」などとやり取りをする我々の横で、お嫁さんが「え!!」と絶句していた。

ほらね、おとぎ話は夢らしく可愛らしくするよりも、少しのリアリティを与えた方が想像がどんどん広がって面白いんだよ。
そうしてどんどん想像をしていくうちにね、大人になればなるほど、サンタクロースの存在を疑わなくなって、「今日もどこかで老体に鞭打って頑張っていらっしゃるのねえ」なんて心配したりするのよ。
その方がずっと楽しいじゃない?