90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

解体新書

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ハロウィンに、この黒猫ケーキを家族みんなで食べた時、私はまず、耳のチョコレート板から食べた。
マイペースな上の弟は器用にも目を剥がして食べた。下の弟夫妻は大胆に眉間から斬りかかった。
お嫁さんたちもいる、こんな時の母はいつも以上に女子力的なものをアピールし始める傾向にあり、身をくねらせながら「いやあん、可愛くて食べられなあい!目が合っちゃうもーん」などと言い出し、後頭部にそっとフォークを入れた。
下の弟はボソッと言った。
「裏から切ると書いて裏切りだよな」
母は一瞬ムッとした顔をした。

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昨夜は、実家からもらった、この雪だるまを食べた。ケーキかと思われたものは、和菓子であった。とても可愛らしい。
しかし、「可愛くて食べられなあい」と女子力をアピールする対象もなく、かつ賞味期限もギリギリなので、ここは冷徹にフォークを入れることにする。
さて、耳はないし、どこからいくか。この突き出たお腹かな。

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吹雪饅頭のような皮の中にこしあん。
さすがにもうこれで致命傷だろうか、それとも生麦事件の如くまだご存命だろうか。介錯をしてやるのが武士の情けというものであろうか。

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死人に口なしと言うものな、ひひひ。

唐突に先日読んだ、大草原の小さな家シリーズの1作目「大きな森の小さな家」で豚をさばく父さんの台詞を思い出した。
「ははは、ローラ、豚はちっとも痛くなんかないんだよ。父さんたちはすばやくやっちまうからね」
・・・本当だろうか。はははって明朗に笑うけど、父さん・・・。
何はともあれ、それならすばやくやっちまわねばならない。

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そしてすばやくやっちまいました。美味しかった。
君の死は無駄にしない。確実に私の脂肪に…なるのだから…。

新装版 解体新書 (講談社学術文庫)

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