90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

やきもちやき

向田邦子脚本のドラマ「阿修羅のごとく
NHKドラマの八千草薫加藤治子が出ているものは見たことがないが、大竹しのぶ黒木瞳が出演している森田芳光監督の映画は見た。

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映画の冒頭は次女、黒木瞳の家に四姉妹が集まる所から始まる。ちょうど鏡開きの時期らしく次女の夫役の小林薫が木槌を片手に鏡餅と悪戦苦闘をしている。そして四姉妹がかしましくお喋りをしながら、割られた餅を手際よく揚げていく。
さすが向田邦子、さすが森田芳光。憎らしくなるほど上手に、昭和の家庭の感じ、生活レベル、姉妹の役割、性格が表現されていた。
映画にも「上手いなあ」と嫉妬したけれど、「きちんとした家庭の生活感のある鏡開き」にもいいなあ、こういうの、と憧れた。

寒がりの私は石油ストーブがないと暮らせない。大家さんがダメだと言っても石油ストーブ。それも流行りのお洒落げなやつ↓じゃだめだ。

アラジン ブルーフレームヒーター グリーン BF3905-N-G

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やかんがかけられて、餅が焼けて、ジャムを炊く鍋もおでんの土鍋もかけられる、ばあちゃんちにあるようなやつじゃなきゃダメだ。そのこだわりを告げると、山形から上京してきた同僚のごっさんが、困った顔で言う。
「ああ・・・。ストーブで餅焼くと、ストーブが粉だらけになるんですよねえ」

粉!?・・・粉って何、どういうこと?
当惑する我々に、ごっさんも驚いた顔で言う。「え?餅って粉だらけですよね?」
いや、餅ってパックに入ってるじゃん!「え?」

ここに来て、私たちはようやくお互いの生活文化の違いに気がついた。ごっさんにとって、餅とは手作りで、打ち粉がされている。彼女はビニールパックの餅を見たことがないので、どういうものかわからないと言う。
そうか、自宅や隣近所で餅をつく家庭に育った子は、今この時代になってもビニールパックの餅を知らないのか、とショックを受けた。
そして、「いいなあ」と思った。

うちの近所には大地主さん一族が住んでいて、その本家たるやすごい。
「あれ?この区画、どこからが地主さんち?」と思うが、どこからも何も区画が全部地主さんの家で、畑もあれば山もある。立派な門柱は親戚筋からの贈り物なのか、まるで神社の柱みたいに寄贈者の名が刻まれている。

その大地主さんの本家の息子と飲み屋で知り合った。すごくいい子だけど、やっぱりボンボンで、23か4のくせして「みんな煙草吸うけど、俺、ちょっと葉巻に挑戦しようと思ってるんス」なんて、岡田真澄みたいな葉巻をくわえてた。全然似合ってない所が可愛らしかった。
ある年末、彼が、飲み屋のカウンターで憂鬱そうに言った。
「ああ、明日、一族の餅つきがあるんス。めんどくせえ・・・」
一族の餅つきか!!すっごいな、くろくん、華麗なる一族だね。セレブじゃん!
とみんなでゲラゲラ笑って送り出し、後日「餅つきどうだった?」と聞いたら、「めっちゃ、餅つきました。親戚の子がいっぱい来たからうちの裏山でかくれんぼしました」なんて言っていた。
お、おう、うちの裏山、な・・・。

飲み屋もなくなって、くろくんともずいぶん会っていないけれど、年末本家の前を通ったら、杵と臼が置かれていたから今年も一族の餅つきが盛大に開催されたんだろう。
いいな、そういう伝統行事があるの。いいな、みんなで年末に忙しく楽しくお餅をついたりするの。

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昨日は鏡開きだったから、ストーブの上で鏡餅を焼いてお汁粉に入れた。そして、ごっさんの「粉だらけ」発言を思い出して、また「いいなあ」と思った。

お餅を見ているとどうしてこんなに羨望や、ジェラシーや嫉妬という言葉が胸中を渦巻くのか。
餅番をしながらしみじみ考えてやっとわかった。
そうだ、嫉妬って「やきもち」って言うからだ!!だからこんなに嫉妬という言葉を思い出していたのか。私ってば単純ね。単純なやきもちやきね。

苦笑いしながら頂いたお汁粉はとても美味しかったから、みんな、嫉妬してくれてもいいぜ?と、単純な私、調子に乗って申し上げます。