フェティシズム
小さな頃の弟は、父の脛と自分の脛を見比べて呟いたものだ。
「あーあ、オレも早くおとな毛生えたいなあ」
おとな毛っていうのか、ああいうの。でも確かに大人になると生えてくるんだものね、おとな毛だね。
そんなおとな毛が生えはじめる小学校高学年の頃から、どういうわけかワキ毛が気にかかって仕方なかった。別に好きじゃない。好きなんかじゃない!ただ、気になるだけ!
その昔、西武ライオンズの若手写真集が発売された時、球場帰りの電車の中で片岡ヤスの写真集の頁を開いたら、上半身裸でワキ毛ボーボーの写真が見開きで載っていて「あわわわわ!」と頁を閉じた。あの写真集はもう涌井くんの分しか手元にないが、しっかりと脳裏にやきついている。
3年ほど前、会社の先輩のナオコさんとチャットしながらバレーボールを見て盛り上がっていた。あの頃の男子日本代表のユニフォームはノースリーブ。「ちょっと!!米山のワキ毛、ふさふさすぎませんか!」「こんなのもう、ワキ毛ジャパンですね!」
ワキ毛ばかり気にする私にナオコさんは「まめ、アンタ、変態だよ」と呆れかえっていた。へ、へ、変態なんかじゃない、気になるだけ!
同じく気になるのは胸毛。こちらは素直に好きだと言える。昔、身悶えする母親と共に見たフィギュアスケートエキシビジョンで、私はキャンデロロの胸毛に目が釘付けだった。
映画「オペラ座の怪人」でもお坊ちゃまなラウル子爵とワイルドなファントム、二人の胸毛の間で「あはーん」とトキめいた。
山田詠美は小説「ベッドタイムアイズ」の中でこんな風に尻について書いている。
汗の川を造る背中の窪みに続いたスプーンの尻。私はいつも、そこに手を触れるのが怖かった。割れ目に誤って手を差し込もうものなら、くわえこんだまま二度と放しはしないだろう弾力のある尻。
沢山の尻がある。どれも同じようにたった一本のスリットを持っている。けれど、私は自分の手を挟み込んで離さないスリットがどれだか知っている。
初めて読んだ時にドキっとしたのは、自分の中でまだ形になっていなかった「尻への愛」が白日のもとに晒されたような気がしたからかもしれない。
ええ、もう開き直りましたけれどね。私は男の人のお尻が好き。好きなのよ!
アダム・クーパーを見に行った時だって、「おお!なんといい尻!」と思った。
マシュー・ボーンのドリアン・グレイの時だってイヤッホオオオオオウ!と思った。
野球はファーストベースの少し後ろあたりに座って、今にも走りだそうかとお尻を振るのを見るのが好き。
ああ、そうだよ、変態だよ。変態と呼ぶなら呼ぶがいいよ。
ぼんやり眺めていただけのソチ五輪のフィギュアスケート団体予選でも、イタリアのポール・ボニファシオ・パーキンソン選手が出てきたとたんに「なんという尻!!」と目が覚めるような気がしたよ。
二度も派手に転んで順位も最下位だったけど、尻ならお前がナンバーワンだぜ。2位はプルシェンコ。円熟の尻。
でも別にぐへへ、と涎たらしたり鼻息荒くしてたりするわけじゃない。男性誌にありがちなきわどい角度の写真が欲しいわけでもないし、スポーツを邪な目で見ているわけでも・・・わけでも・・・なくて、真剣勝負のスポーツに、素敵な尻があったら、尚素敵、と思っているだけで・・・。
・・・ダメだ、言葉を尽くせば尽くすほど、変態っぽいな。
- 作者: 山田詠美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/10/30
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