90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

春のめざめ

飲み友達のツトムくんが、栗の渋皮煮を作るのにハマっていた事があった。
なんでもあれは、煮ては冷ましを繰り返して作るらしく「最近のオレは会社から帰って子供の顔見るより先に、栗の顔見て様子を確認してるからね」なんて言ってみんなの笑いを誘っていた。

別に笑いはとれないけれど、ここ最近の私は会社から帰って、コート脱ぐより先にベランダに出て雪割草やら盆栽の顔を見ている。懐中電灯で照らしてあれこれ眺めて「ふむふむ、コリアンダーのやつめ、ようやく双葉になったな」なんてほくそ笑んで一鉢ずつ巡回する。そう、まるで夜回り先生の如く。

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長寿梅の盆栽は花芽らしきものが膨らんできた。
ブロッコリースプラウトは明日の朝、先遣隊を刈り取ってツナと一緒にサンドイッチにする。

「見つめることは愛情です」と高校の頃、先生に言われたけれど、こうして植物を見つめて愛情を注げるようになってきた。ずいぶんおばあさんみたいになってきたもんだ。
ちょっと前までは毎回春一番も見逃していた。そして強風が吹いた日に「あら、春一番?」なんて訪ねては同僚たちに「一番はもう吹いた。これは二番」とか「もう三番くらいじゃない?」なんて呆れられてきた。でも、今年は春一番だってちゃんと気がついた。なにせ、よく見つめているからね。そして、あの日は植木鉢が倒れて割れていたらどうしようかと青ざめて帰ってきたからね、やれやれ。

東京・横浜でさくら開花 関東も今週は開花ラッシュ (ウェザーマップ) - Yahoo!ニュース

今日、会社で「もう桜が開花するんでしょ」と主任に言われてショックを受けた。
な!なんですって?毎日あんなに桜を観察していた私が桜が開花しそうなことを見逃していた!?そして主任に得意げに開花を告げられている!?どういうこと?
だって、日々蕾が膨らんできてはいるけれど、うちの桜はまだこんな状態よ?

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子供がまだまだおむつを卒業できなくて当たり前だと思っていたら周りの子はみんなとっくに卒業していたと知った時の母親の気分はこんな感じだろうか。
5歳だったらまだひらがなをちゃんと書けなくてもいいよねと思っていたら、他所の子が相撲取りの名を漢字で書いていた!っていうような衝撃?

懐中電灯を片手に、ベランダでしみじみ母親の気持ちを想像したけれど、そう言えば、これは旭山桜という種類でソメイヨシノよりも後に開花するって言われていたんだった。ついつい「うちの桜基準」で考えて、世の中と時間の感覚がずれてしまったみたい。

ソメイヨシノが咲いたらもう春も本番だ。まだそんなつもりじゃなかったから、なんとなく気持ちが焦る。
別に焦ることは何もないのに。
違う種類の違う生き物、違う時間を違う体で生きているのに、ついつい比べて不安になったり。
まるで、周りの女の子たちの胸がどんどんふくらんでいって、大人の下着をつけ始めたのに自分だけがぺったんこの子供のままだったあの頃みたいに。