90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

我々とあなたがた

久々にふとNHKFMを聴いたら、「ラブレーと音楽」という特集だった。

フランソワ・ラブレー
フランス・ルネサンスを代表する人文主義者、作家、医師。
中世巨人(ガルガンチュア)伝説に題材を取ったパロディー物語『ガルガンチュワ物語』と『パンタグリュエル物語』からなる『ガルガンチュワとパンタグリュエル』で知られる。これらは糞尿譚から古典の膨大な知識までを散りばめ、ソルボンヌや教会など既成の権威を風刺した内容を含んでいたため禁書とされた。 wikipediaより

ここに書いてあるのと同じことを指揮者花井哲郎氏は生真面目な声で淡々と語る。
「糞尿にまみれた」「大酒飲みと大食らいばかりでてくる」「あまりに下品で猥雑で放送するのは憚られる」そして「教会を風刺したため禁書になった」と。

「さあさあ飲むぞ!という題名の曲や、「鶏肉焼くから酢を持ってこいよ!」と大声で叫ぶ内容の歌を聴きながら「フランス人は大昔から風刺好きだったのか」と驚嘆する。

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今回のフランスの事件で、上記の福島について描かれた風刺画が話題になった。あの時確か、日本側の抗議に対しフランスからは「フランスでも大して売れていない新聞の風刺画をわざわざとりあげて騒ぎにする日本の方がおかしい」「我々はユーモアでこの困難を乗り越えるのだ」というコメントが出た。
そこは日本人らしく「ふーん、そっか…」と弱気に渋々頷きつつ、「我々」とは一体誰のことか、とチラと思った。別にフランス人が被災したわけでも放射能の脅威にさらされているわけでもないのに…と。

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この前のムスリムに対する風刺画で、テロの前にムスリム側から抗議が来た時も彼らは同じ返事をしたらしい。
「我々はユーモアで困難を乗り越えようとするのだ」
もうテロが起こってしまった後だったけれどやっぱり思った。
「我々って誰のこと?」

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大勢のフランス人たちはテロに抗議して「私はシャルリー」と訴えて街を歩く。
そう・・・、「我々」であるあなたがたはシャルリー・エブド・・・。

なんだか意外だ。酒と薬と恋に溺れてアンニュイに死んでいったりするフランス映画や小難しいフランス哲学やらの印象が強かったから、フランス人たちがあんなにも熱狂的に一つのことに集結するとは思わなかった。あまつさえ「言論の自由」なんてビッグワードを声高らかに叫ぶなんて。
でもまあ、フランス革命の時も、ヒトラーが台頭した時のヨーロッパの熱狂も、こんな感じだったのかもしれない。

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世界は何か「正義と悪」という完全二分割の図式を求めているんだろうか、と、あの熱狂や、ここぞとばかりに結託する各国首脳の姿を見ながらぼんやり思う。
テロリズムは悪いこと。それは間違いない。人殺しは酷いこと。誰だってあんな風に撃たれて突然人生を終えるのは嫌に決まっている。そんな酷い死に方はない。

だから今、フランスは困難に直面している。
だけどその自分たちの困難を、「我々」であるあなた方はユーモアで乗り越えようとはしないのでしょうか。
改めて「我々」とは、一体誰のことなのでしょう、シャルリー。

そんな気持ちでここ何日もニュースを見つめていますが、どうか不謹慎だと怒らないでください、フランスのあなたがた。
我々とて出来る限りユーモアで困難を乗り越えたいとは思っているのです。