90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

一緒に食べよう

2月の終わり、学生時代の友人ヤマダから突然メールが来た。
「突然ですがシュラスコ食べませんか。旧交を温めたいのもありますが、とにかく肉が食べたいのです」
・・・「ご臨席賜ればギャツビーの栄誉、これにすぎるところはない。ジェイ・ギャツビー」という一文を書き足したくなるほど、どことなく慇懃な文章だ。シュラスコというものが何だか全く知らないが、とにもかくにも肉であることは理解した。

グレート・ギャツビー

グレート・ギャツビー

唐突の人 - 90億の神の御名
以前にこんな記事も書いたが、食べ物の誘いはいつも唐突で情熱的かつ衝動的。そしてどこかシュール。
だけれども断らないのはその衝動に自らも身を焦がしたことがあるからだ。1年半ばかり前、ジンギスカンが食べたい!!と衝動的にメールを送りヤマダを呼び出した。あの時の礼を返さねばならないので雨だけど都会へ出て行く。そしてシュラスコなる食べ物を食べる。

牛を中心とした肉(中には鶏のハツなども含まれる)の様々な部位を串刺しし、ギャルソンが串ごと客席に運び、目の前で食べたい量を切り分けるという供し方が特徴。ウエイターが持ってくる串は肉類だけではなく、エビやパイナップル、焼きバナナなどもある。
                wikipediaより

その通り、ギャルソンさんが串に刺した肉やパイナップルを持ってテーブルを回り、最近の怖い世界ニュースを若干思い出させるような鋭利な刃物で切り分けてくれる。
お兄さんのイケメンぶりと肉にテンションがあがり、こんな写真しか取れなかったが堪能したとも。肉とビール。

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世の中には、自宅では食べることができなくて、そして一人では挑戦しにくい食べ物というのが結構ある。
そんな時、悶々としながら友人たちにメールを投げたり投げられたりする。「しゃぶしゃぶ食べたいんだけど」とか「いか姿焼きが食べたい!だとか。
それから一人でも別に行けるけど、どうせなら一緒がいいからと誘ったり誘われたりすることもある。
かえる姉さんからの「今日コメる?」(註:今日コメダコーヒー行く?)などがそれだ。断ると「一人コメしてくるね」と返事が来る。一人コメだと、シロノワールはちょっと難しいんだよね、例えミニでも。ごめんね。

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誰かの家に遊びに行くことがあれば浮かれて「ピザがとりたい!」と騒いだりする。一人でピザの宅配を頼める程の勇者にはなかなかなれないものだから。

春の嵐」と言った体の強風吹きすさぶ都会で、古臭い喫茶店から街並みを見下ろしてヤマダは言う。
「あの頃、俺らはバカだったよなあ。すごく恵まれてたくせに不満ばっかりでさ。あれから20年か。こんな風になってるとは思わなかったな」

・・・今だってバカだよ。
そんできっと20年後も同じこと言ってるんだよ。生きてればね。
まあ、いいじゃない。とりあえず、何か食べたい衝動に身を焦がし、そしてそんな時、呼び出す友達がいるっていうのは、割と幸せなことだよ。
お互い家族は作り損ねたけれど、普段一人で食べられないものを一緒に食べるために呼び出して、「最近どうだ、こうだ」とぼそぼそ近況報告しあって、様式美だとは知りつつも「お前変わんないなあ」なんて言って、毎回同じ話を繰り返して笑うのだって悪くないじゃない。またご飯食べましょうね。
・・・と手を振って、学生時代にはなかった地下鉄に乗って帰る。肉の匂いをまき散らして。