偉業の母
かつて、同僚たちと二ヶ月に一回くらいの頻度で「世界のご飯を食べよう会」を開催していた。和食、中華、イタリアン、韓国、タイ、スペイン…順調に続いたこの会が廃れたのはひとえにペルー料理のせいだと思われる。
「えー、ペルー料理ってどんなだろうねえ」とうきうき浮かれて、五反田のアットホームな感じのレストランに入った。コースはまずは豆のサラダから。次は芋だ。ここまでは「へえ、こんな感じなんだねえ、美味しいねえ」とはしゃいでいたが、牛肉withじゃがいも的な料理が出てきてから、だんだんと危機感に襲われ出す。
ね、ねえ、我々はいつになったら炭水化物から解放して頂けるの?
しかし、ペルーは我々を許さない。その後も豆に次ぐ豆、芋に次ぐ芋。やっとデザート!と思ったらライスプディングを出された時の絶望感。
苦しいお腹をさすりながら我々は呻くように呟いた。
「ナスカの地上絵ができるはずだよ!あの絵は炭水化物で成り立っている。これだけ炭水化物をとるからこそなし得た偉業に違いない!」
知人からチケットを頂いたので、昨日は会社帰りに上野でミケランジェロ展を見てきた。
メインはシスティーナ礼拝堂天井画と「最後の審判」なのだが、「食べ物のスケッチと3種のメニュー」という、誰かのほぼ日手帳に描かれた食事記録みたいな絵が気にかかった。
説明書きによると、ミケランジェロは肉を食べない質素な食生活とのことだが、パン、スープ、ニシン、イワシ、パスタ、ワイン、サラダ等、そんなに質素か?と言いたくなるメニューだ。
何よりパンをよく食べる。パスタもあるのに。どんなサイズのパンなのかは知らないが、朝、パン2個。昼4個、夜6個。1日に12個もパンを食べるのだ。ヤマザキなどの6個入りバターロールなら2袋を一日に消費していることになる。
ちょっと・・・ねえ、ちょっと、ミケランジェロ、パン食べ過ぎではないですか?
と、いらぬ心配をしてみたが。
ミケランジェロは、システィーナ礼拝堂天井画を描く仕事に本当はあまり乗り気ではなかったが、教皇に頼まれて仕方なく引き受けたそうだ。そして常に天井を見上げる苦しい姿勢で、天井のカーブや建物の角度を計算に入れて立体感のある絵を描いたらしい。
肩こりだって腱鞘炎だって相当酷かっただろう。労災なんて出やしないだろう。これを乗り切るには炭水化物だ。パンとパスタが必要だな。
おまけにその20年後、今度は祭壇の後ろに「宗教改革で浮かれる者への警告だ!」と「最後の審判」を描く仕事を任され、必死で仕上げるも「なんでみんな裸なんだよ、宿屋や風呂屋の壁画じゃあるまいしw」などと文句をつけられ、不自然な腰布を書き足されたりする。
・・・テルマエ・ロマエ読んでも思ったけど、昔のローマ人の感覚って結構日本人と似てるよなあ、と親近感を抱きつつも、ミケランジェロへの同情も禁じ得ない。そりゃあ、夕食にパンのやけ食いもしたくなるよな。夜6個か、仕方ない。
江戸時代の飛脚も、米と少しのおかずだけで東京から大阪までを駆け抜けて行ったのだという。ピラミッドを作った人たちもきっと、パンのようなものを大量に食べていたのだろう。
偉業を生み出す力となるもの、それはきっと炭水化物。