肉体というフィードバック装置
人間が頭だけになれば、全てを理屈で整理し、快楽も苦痛も全て想像の世界で味わうことになる。最終的には理屈の迷路に迷い込み、狂人になるだろう。人間は肉体というフィードバック装置がないと、破滅的な結論に向かうのだ。
島田雅彦「僕は模造人間」
ちょうど高校の現代国語で中島敦の「山月記」を習っていた頃、図書室で借りた小説にこの文章があった。
私は割と頭でっかちで、肉体的にフィードバックする能力に欠けていたから、「ああ、このシンクロニシティは神様からのメッセージか」と思った。
昨日はラグビー大学選手権の決勝を見に国立競技場に行ってきた。
すごい広さの競技場なのに、タックルをした時に、肉体と肉体のぶつかりあう「ドスッ」という音がバックスタンドまで聞こえてくる。人間はあんなふうにぶつかっても壊れないものなのか。まさに「肉弾戦」というやつだな。
ラグビーは「紳士のスポーツ」だとよく言われる。
激しいプレーが信条であるからこそ、紳士的精神が求められ、また、ラグビー発祥の地イギリスでは、社会のリーダーを育てるためには欠かせぬ紳士教育であるのだそうだ。
漫画の主人公のように盛り上がった大胸筋。
激しいぶつかり合いや力と力の攻防戦に興奮しながら、
「英国紳士が常日頃紳士然と振る舞うためには、こんなにも激しいぶつかり合いでストレスを発散させることが不可欠だったのだな。英国紳士も相当鬱屈してるんだろうな。こうやってバランスをとるんだな」と思った。
試合後、泣き崩れる早稲田の選手を、帝京のイラウアがずっと慰めていた。嬉し泣きをするチームメイトの肩も抱いていた。
肉体というフィードバック装置を上手に使える彼は、紳士的に優しい。