90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

バトル・ロワイアル ~ねえ、インフル罹ったことある?~

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BR法(抜粋)
第一条 BRの目的
バトル・ロワイアル(以下BR)は、心身ともに健康な国民の育成を目指して行うものである。
第三条 BRの方針
BRの全ての対象者は明るく、楽しく、元気に戦わなくてはならない。
第四条 BRの義務
BRの全ての対象者は正々堂々戦う義務があり、なんぴともこれを拒否、ならびに妨害することはできない。

インフルエンザ、その病気に罹ったことのない者は「俺なんて生まれてこの方一度もかかったことないね」「予防接種なんて受けたこともない」「弱い奴がかかるんだろう」「所詮他人事」「放っておけば治る」などと馬鹿にしていることだろう。
だがあの病気はそんなに生易しいものではない。確実に関節を殺しに来るし、人は一人では生きられないのだ、健康は大切だと綺麗ごとのように語られる言葉の数々を真実として骨の髄まで叩き込んでくる。

一人住まいの人間にはより難易度が高い。這うようにして病院に行き、重たいポカリを引きずって倒れかけながら帰宅し、寒さと関節の痛みに震えて眠り、目が覚めれば汗でびしょびしょのパジャマとシーツを洗濯して干すまでの作業をしなければならない。洗濯もトイレもふらつく体をあちこちにぶつけながらの作業だ。

友人タキコは体育大学在学中に一人暮らしの友人をインフルで亡くしている。こたつに入ったまま亡くなっていたそうだ。
「具合が悪いと言っていた。どうしてあの時、自分は様子を見に行かなかったのか。ドアを蹴破ってでも駆けつければよかった」
居酒屋の片隅でタキコは泣いていた。
体力のある大学生ですら死に至らしめる恐ろしいインフル。
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「私は10年前インフルに罹ったことがあるんだ。あの生き残りだ」

戦いの予感は2月に入った時点からあった。世間で大流行が始まったとの噂だったし、隣のビルのお取引先の青年が発症し「どす黒い顔で帰宅した」との証言もあった。そしてついに始まる。

2016/02/08
08:15 去年係長に昇進した無邪気少年な主任がマスクをして出社。「インフルかもしれない」と発言。
17:00 病院に行ってきたところインフルエンザであることが確定。
18:18 課長よりインフル罹患者発生の報告メールが一斉送信される。
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「今からちょっと、うがい、手洗い、マスクの着用を徹底してもらいます」
バトル・ロワイアルの開始である。

2016/02/09 本日より無邪気少年係長はインフル休暇。次は自分かもしれないという疑心暗鬼に苛まれた女子たち。
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「マジ、インフルとか絶対ムリ!」「なんであの人インフルかもって思いながら出社すんの?来んなよ!」「テロ行為でしょ」「課長もさあ、いくらトラブルがあったからって退社時間まで係長居させるのおかしくない?昼で帰って当然じゃん!」「そもそも昼に病院行けよ!」「金曜に熱が下がってれば出社するらしいけど、治りかけが一番ウイルスばらまくから金曜も来ないでほしい」
口々に係長と課長を罵る。
こんなことになる前はごくごく普通の平和な職場であったのに。
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2016/02/10 隣のチームのA係長が罹患。隣の課からも2名発症。同じフロアでは5名。もはやこの職場は安全な場所ではないと悟る。
「〇〇さん、通院です」「××さんはお子さんの学級閉鎖の関係で遅刻です」
そんな報告が入るたびに誰もがソワソワと落ち着かない様子でそちらを注視する。「ウイルス持ってるかもしれない奴が来る!」「自分がやられるかもしれない」「絶対かかりたくない!」
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何があってもここで戦い抜かねば、そして勝ち抜かなければならない。例え会社に来れる最後の一人になったとしてもインフルには罹りたくない。
覚悟を決めて手持ちの武器を確認する。
11月末に受けたインフル予防接種、係長罹患に伴い免疫をあげるために飲み始めたR-1、石油ストーブによる加湿、そんなにバランスは悪くないと自負する食生活、最近眠くて眠くて早寝生活であること。健保から支給されたマスクとうがい薬。
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これは「当たり」の武器であろうか。

千草貴子のように神様に語りかけたい。
神様、冗談だったらやめてください。
神様、もう一言だけいいですか。私は誰を蹴落としてでもインフルエンザに罹りたくありません。

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そんな訳でいつ何時、どこからあのウイルスに襲われるかもわからない会社の中で、私は生存をかけた熾烈なバトル・ロワイアルに参戦中です。
「あたしの全存在をかけて、あんたを否定してあげる、インフルエンザ」