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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

しじみのチカラ

通っていた高校は「日本で一番金のない学校」とのことであった。本当か嘘かは知らないが、当時、「日本で一番教育にお金をかけない埼玉県の中で、反抗的理由により一番予算を削られている高校」だと噂されていた。
そんな訳で、入学式の次の日に受けた注意事項は「地震の際には非常階段を利用してはいけません。老朽化のため、あれが一番最初に崩れます」という本末転倒なものであったし、生物の授業の時には「本来ならカエルなどを利用して解剖実験を行いたいが、予算の都合上、全員分用意できないのでしじみで行います」と言われた。
母は「あれならスーパーに売っている1パックで2クラス解剖できるものね!」とげらげら笑っていた。しかし、肝心の解剖実験についてはまったく記憶がない。きっとしじみが小さすぎたせいだろう。

劇団に勤めていた頃、島根のお取引先から会社に宍道湖のしじみが届き、みんなに少しずつおすそ分けがあった。それも生きているやつで、紙コップにしじみを入れてラップをかけて配られた。会社で活しじみをもらう、というシュールな光景にも驚いたが、何よりしじみが大きいことに驚いた。スーパーで売っているしじみやお味噌汁に入っているしじみはせいぜいが、1センチから1.5センチくらいだと思うが、宍道湖のしじみは2センチから2・5センチくらいあった。
「え?これしじみ?」「あさりじゃなくて?」「やっぱ、本場宍道湖のしじみは違うね!名産品になるだけあるね!」とみんなして紙コップの中のしじみを見つめながら話した。

「今、私がしじみを連れて電車に乗っているとは誰も思うまい、ふふ」とニヤニヤしながらしじみを連れての帰りがけ、実家に立ち寄ってしじみを渡したら、母はうんざりした声で言った。
「あんたはどうしてそうやって、子猫とかしじみとか、世話のやけるものばかり持ってくるのよ!」
・・・別にしじみの世話はしなくとも良い、味噌汁に入れたまえ!
雄々しく告げてしじみは置いてきた。

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14日、郡山に花火を見に行って福島に泊まって、15日は福島県立美術館にプライスコレクションを見に行った。前にid:hidamari39さんのブログで「若冲の絵を観に行った - hidamariひとりごと」という記事を読んで、いいな、と思っていたので、「どうせ郡山に行くんなら」と友人に頼んで連れて行ってもらったのだ。

そこで見た鈴木其一の「貝と梅の実」という絵の前で私はしばし立ち尽くしてしまった。貝の絵も見事だ。「梅の実が赤く色づいていることで、夏が近いことを表している」という説明書きにもなるほどなあ、うまいなあ、と感銘を受けた。しかし何より心をつかまれたのはしじみだ。ここに描かれている貝は、しましまの赤貝、その横にハマグリ、ダイヤ柄の浅利、そして黒いものはしじみだとの事だ。

・・・やっぱり、しじみがデカい。浅利と同じくらいデカい。これは宍道湖のしじみかしら。あの日、私が大きさに驚いたしじみと同じものをこの人も見ていたのか・・・。あれはやはりしじみで間違いなかったのか。このしじみが相手だったら、きっと解剖の実験も覚えていられたでしょうに。

しじみにまつわるあれこれを胸中に思い起こしながら「手前の黒い貝はしじみ」という説明文としじみの絵を何度も何度も見比べて、ほーう、と溜息をついた。
それは絵の力によるものか、はたまたしじみのチカラによるものか。

しじみの力 肝輝(30日分)【お酒の好きな方・カルシウム不足の方へ】

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