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90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

ものの例え

泡沫

法人向けの携帯電話関連の仕事をしている。
ある日、パケットとは何かと説明しようとして主任は言った。
「大きいデータを鞄にちょっとずつ分けて運ぶ感じ。その鞄1個が1パケットって言うか・・・。よし、わかった!今日、この後パケット勉強会やるぞ!場所は餃子の王将!餃子食べ放題コースがあるんだ。餃子1個を1パケットと考えればいい。パケットし放題だから、何個食べても定額だぞ!」

は?王将とか無理無理!ベタベタしてそうだし・・・と女子に総スカンを食って勉強会は中止になったが、パケットについてはとてもよく理解できた気がする。餃子ね、餃子なのね。

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祖父が生前言っていた。
「はあ、女ってのは、カンナ屑が燃えるみたいにペラペラとよく喋るもんじゃの」
他の人が言ったらイラッとするのかもしれないが、じいちゃんが眉毛を下げて呆れたように言うので、上手いこと言うもんだと笑ってしまった。

比喩表現と言えば村上春樹で、比喩表現だけをまとめたファンサイトがあったり、新作が出れば「今度はこんな比喩表現があった」と読んだ人が嬉しそうに発信していたりする。
有名な「春の熊くらい好きだよ」とか「エレベーターは肺病を病んだ大型犬のようにかたかたと揺れた」「メルセデスは聞きわけの良い巨大な魚のように、音もなく夜の闇の中に消えていった」「僕はひびの入ったダチョウの卵を温めるみたいな恰好で電話機を胸に抱えてベッドに腰を下ろした」「でもときどき品のいいゴミ箱みたいに扱われる」とか。


村上春樹ほど詩的なわけではないが、課長が時折面白いものの言い方をする。
昨日は電話を終えたあと「なんだアイツ、死にかけのノミみたいな声だしやがって」と笑っていた。死にかけのノミ!どんな声かは知らないが、きっと相当か細い声なんだろう。
前に、長々としたトラブル報告メールを読み終えた時は呆れて言っていた。「ふんどしみたいに長いメールだな!」
ふんどし!課長にとって長いものはふんどしなんですか!とみんなで大笑いした所、一躍話題の中心に躍り出た課長は嬉しそうに続けた。「いや、僕は青森の出身なんだけどね、五所川原って知ってるかい?」
はいはい、吉幾三が「生ーまれ青森五所川原ァー」って歌ってるとこですね?
「そうそう、あれが長っぽそい町で、我々みんなで、ふんどしみてぇに長っぽそいなって笑ってたんだよ」
あとで地図で五所川原市を調べたら飛び地になっているけれど、特に細長い感じではなかった。課長の言っていたのは市ではなくて町のどこかの事なんだろうか。青森のどこかにふんどしのように長い町があるんだな。南米チリのことも「ふんどしみたいに長っぽそい」と思っているんだろうか。華厳の滝も「ふんどしみたいだな」って言うだろうか。

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いつか、この仕事をしなくなっても、きっとパケットの事は忘れないだろう。誰かに聞かれれば餃子食べ放題みたいなもんだよ、と言ってやるだろう。課長が退職して会わなくなっても、きっと長いものを見れば「そういえば課長がふんどしみたいって言ってたな」と思い出すんだろう。死んだじいちゃんの言葉を思い出すように。村上春樹の小説がいつまでも心に残るように。
・・・私にできるのはこの程度のものの例えにすぎないな・・・。